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船舶の脱炭素はなぜ難しいのか、水素エンジン開発と船舶設計の2軸から見る現実解船も「CASE」(2/3 ページ)

海上技術安全研究所が開催した「第25回講演会 海事産業における脱炭素とGXの最新動向」では、船舶の脱炭素に向けて、水素エンジンの最前線に立つ開発現場の視点と、燃料が未確定な時代を前提にした船舶設計の考え方という2つの軸から現実的な解が提示された。

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 重要なのは、水素を単なる代替燃料ではなく、港湾または船舶インフラの一部として再定義することだ。先に述べたように、タグボートや港湾荷役機械は、水素内燃機関との相性が良く、水素利用を「実験的な取り組み」から「港で普通に使われる技術」へと引き上げる起点となる。

日本でも日本財団の支援を受けて水素利用可能エンジンの搭載が進んでいる
日本でも日本財団の支援を受けて水素利用可能エンジンの搭載が進んでいる。ジャパンハイドロでは旅客船「ハイドロびんご」に続いて2025年10月には水素混焼エンジン搭載タグボートを就役させ、現在は水素専焼エンジン採用のカーフェリーの建造を進めている[クリックで拡大] 出所:ジャパンハイドロ

 さらに、青沼氏は「浮体式水素ステーション」によって、陸上インフラへの依存を最小化しつつ、水素供給を柔軟に行う構想も示した。加えて、造船所内に舶用水素ステーションを併設したジャパンハイドロの水素エンジンR&Dセンターでは、エンジン、燃料供給、運用を一体で検証する体制を整えていることも紹介された。

現在建造が進む浮体式水素ステーションの完成予想CG
現在建造が進む浮体式水素ステーションの完成予想CG。港湾施設も規模を問わず敷地に余裕がない現状において、海に浮かべる水素ステーションは水素供給インフラの導入を促進すると期待されている[クリックで拡大] 出所:ジャパンハイドロ

燃料が変わる過渡期の「船の設計」はどうあるべきか

 内航海運の脱炭素に向けて、政策目標そのものは既に明確に示されている。一方で、設計や建造の現場に立つと、「では、どの燃料を前提に船を設計すべきか」という問いに、今確定的な答えを出すことは難しい。2030年、2040年、2050年といった節目ごとにGHG(温室効果ガス)削減目標は定められているものの、代替燃料の供給体制や港湾インフラ、燃料価格の将来像はいずれも不確実性が高い。この“見通せなさ”そのものが、従来の船舶設計の前提を揺さぶっている。

海技研 GHG削減PT PT長の小坂浩之氏
海技研 GHG削減PT PT長の小坂浩之氏

 この問題に対し、今回の講演で示されたのが「Ready船」という設計思想だ。本講演を行った海技研でGHG削減PT(プロジェクトチーム)のPT長を務める小坂浩之氏は、海技研において流体設計、動力・環境、データ分析、リスク評価といった複数分野の研究成果を横断しながら、船舶分野における温室効果ガス削減を「実装可能な形」で成立させることを検討する役割を担っている。

 その立場から提示されたReady船の考え方は、将来の燃料を決め打ちするものではない。新造時は従来燃料で運航しつつ、燃料供給インフラや制度が整った段階で代替燃料へ移行できるよう、設計段階から改造の余地を織り込んでおく。重要なのは、燃料転換を先送りすることではなく、不確実な将来に対して“時間を味方に付ける構造”をあらかじめ設計しておく点にある。

 設計を難しくしている最大の要因は、代替燃料の物性差だ。LNG(液化天然ガス)、メタノール、アンモニア、水素といった次世代燃料“候補”はいずれも、重油に比べて体積当たりの発熱量が小さい。その結果、同一の航続距離を確保しようとすると、燃料タンクは従来燃料の数倍規模に肥大化する。特に内航船では、船内スペースに余裕がなく、タンク容量の増加は貨物スペースの圧迫や、総トン数増加に伴う規制条件の変化に直結する。燃料の選択が、そのまま船型や配置、ひいては事業採算性に影響を及ぼす構造にある。

 こうした制約の中で重要になるのが、「Readyレベル」という段階設計の発想だ。代替燃料対応設備を建造時にどこまで実装するのか、あるいは将来改造に委ねるのかを、初期費用と改造時の困難さのバランスで整理する。エンジンを2元燃料対応とするのか、燃料供給系や配管のスペース確保にとどめるのかといった選択肢を、船種や運航条件に応じて選び取ることが求められる。

“脱炭素船”の設計は困難を極める
船舶における代替燃料の研究と導入が道半ばにある現時点において、“脱炭素船”の設計は困難を極める。そこで、現時点で対応可能な設備で就役後、技術の進化に合わせて段階的に設備を対応させていくのが「Ready船」のコンセプトだ[クリックで拡大] 出所:海技研

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