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選択肢を絞り使い勝手を向上、貝印が設計した“刃1本”のブレンダー新製品開発に挑むモノづくり企業たち(13)(1/2 ページ)

本連載では、応援購入サービス(購入型クラウドファンディング)「Makuake」で注目を集めるプロジェクトを取り上げ、新製品の企画から開発、販売に必要なエッセンスをお伝えする。第13回は、刃物メーカーとして長年の実績を持つ貝印が開発したコードレスブレンダー&チョッパーを取材した。刃を付け替える方式のブレンダーも数多く存在する中で、あえて“刃1本”という設計判断を選んだ背景や、その開発アプローチに迫る。

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市場環境が変わる中、B2B事業で培った技術を生かして新たにB2C製品を作るモノづくり企業が増えている。大きなチャンスだが、今までと異なる機軸で新製品を作る上では大変な苦労もあるだろう。本連載では応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」のプロジェクトをピックアップし、B2C製品の企画から開発、販売に至るまでのストーリーをお伝えしたい。


 製品の機能設計においては、顧客ニーズに応えようとするほど「機能を増やす」「選択肢を広げる」方向に進みがちである。モードの追加やアタッチメントの拡充は、幅広い要求に応える解決策として、多くの製品分野で採用されてきた。

 一方で、機能や器具を追加することは操作や管理を複雑にし、実際の使用シーンでは必ずしも有効とは限らない。特に家庭用機器のように日常的かつ短時間で使われる製品では、「使えること」と「使われること」の間にギャップが生じやすい。

 家庭用ブレンダーも同様の課題を抱えている。多機能化が進む中で、刃の付け替えや付属パーツの管理が負担となり、結果として“キッチンの飾り”になってしまうケースも少なくない。さらに、コードレスという条件は出力や耐久性など設計上の制約をより強める。

 こうした中、刃物メーカーとして長年の実績を持つ貝印は、「機能を足す」のではなく「機能を絞り込む」という発想でコードレスブレンダー&チョッパーを再設計した。同社が選んだのは、あえて“刃1本”に設計を集約するという判断である。

 今回は、貝印 マーケティング本部 第三ブランド・商品戦略部の藤野倫氏と、広報宣伝部の林莉子氏に、その設計思想と開発の背景について話を聞いた。

貝印が開発した「SELECT100 コードレスブレンダー&チョッパー」
貝印が開発した「SELECT100 コードレスブレンダー&チョッパー」[クリックで拡大] 出所:貝印

日常的に無理なく使える調理道具としてブレンダーを再定義

――刃物メーカーの老舗である貝印が今回、ブレンダーの開発に取り組んだきっかけは何だったのでしょうか。

林氏 当社は1908年創業で、2026年に118年目を迎えます。現在はKAIグループとして事業を展開しており、事業の中核は包丁やカミソリ、爪切りといった刃物製品です。ビューティーケア用品や製菓道具も手掛けています。家庭用包丁、爪切り、使い捨てカミソリでは国内市場で高いシェアを有しています。売り上げ構成は国内が約48%で、半数以上を海外が占めています。製品カテゴリーでは包丁が約24%と最大ですが、スポーツナイフやカミソリ関連製品、医療用メス、工業用刃物など、刃物技術を応用した領域にも事業を広げています。

藤野氏 その流れの中で、2004年からは「SELECT100」というブランドで、ピーラーやおろし器、計量スプーンなど日常的に使う調理道具を展開してきました。その中でブレンダーは「いずれ取り組みたい」と考えていたカテゴリーの一つでした。検討が具体化したのは、当社が過去に手掛けたコード付きブレンダーについて、料理家の方から「スープやソースが思ったように仕上がらない」と指摘を受けたことがきっかけです。また、コード付きであるが故の取り回しの悪さから、使用場面が限られるという課題もありました。そこで日常的に無理なく使える調理道具としてブレンダーを再定義し、SELECT100の思想の下、コードレスで設計できないかと考えたことが今回の開発の出発点です。

シリーズ累計出荷数800万個超を誇る「SELECT100」
シリーズ累計出荷数800万個超を誇る「SELECT100」[クリックで拡大] 出所:貝印

「持ちやすさ」「使いやすさ」「デザイン」を重視

――ブレンダーに関して、こだわりの点を教えてください。

藤野氏 「持ちやすさ」「使いやすさ」「デザイン」の3点を重視して設計しました。持ちやすさの面では、本体上部にわずかに角度を持たせ、人が自然に握ったときの手首の角度に合う形状としています。無理なく操作でき、手首への負担を軽減できる点が特長です。

 使いやすさについては、ボタン配置を工夫しました。自然に握ると親指がロック解除ボタンに、人差し指が運転スイッチにかかる設計です。取扱説明書を見なくても直感的に使えることは、SELECT100全体で大切にしている方針です。デザインについてもSELECT100らしいシンプルさを重視しました。

自然な指の位置/手首の角度で使用できる
自然な指の位置/手首の角度で使用できる[クリックで拡大] 出所:貝印

 そして刃はあえて1本に絞りました。複数の刃を付け替えるタイプもありますが、手間や安全面、紛失などの問題から、実際には1種類しか使われないケースが多いことが分かりました。そこで1つの刃で幅広い食材を調理できるように設計しました。刃の部分にガードカバーを付けることで、鍋の中で直接スープなどを調理する際も鍋底を傷つけにくいよう配慮しています。

1つの刃であらゆる調理に対応できる
1つの刃であらゆる調理に対応できる[クリックで拡大] 出所:貝印

――刃を1本にできたノウハウや、開発のアプローチについて教えてください。

藤野氏 今回の試みは、包丁や刃物製品で蓄積してきた知見をブレンダー用途に最適化したものです。高速回転するブレードでは、包丁のような鋭い切れ味が常に最適とは限らず、耐久性とのバランスが重要になります。

 刃の角度や硬度による欠けや摩耗については、過去の知見から一定の見通しがありました。そこで高速回転に必要な条件を想定し、他社製品との比較や耐久試験、試験後の刃先観察を重ねながら仕様を詰めました。刃の形状についても複数案を検証しましたが、コードレスである以上、出力には制約があります。奇抜な多機能形状ではなく、洗浄性や扱いやすさを含めた汎用(はんよう)性を優先した結果、斜め刃設計を採用することにしました。これにより1本で幅広い用途に対応でき、食材を効率良く巻き込みながらムラのない撹拌(かくはん)を実現しています。

刃先を斜めに設置することで食材をムラなく均一にカットできる
刃先を斜めに設置することで食材をムラなく均一にカットできる[クリックで拡大] 出所:貝印

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