ハイブリッドスパコン「地球シミュレータ」は第5世代へ――JAMSTECの上原氏と松岡氏に聞く:AIとの融合で進化するスパコンの現在地(8)(3/4 ページ)
急速に進化するAI技術との融合により変わりつつあるスーパーコンピュータの現在地を、大学などの公的機関を中心とした最先端のシステムから探る本連載。第8回は、JAMSTECで「地球シミュレータ」のシステム構築や運用を担当している上原均氏と、生成AI活用を含めデータサイエンスの研究を担当している松岡大祐氏に話を聞いた。
年間20件程度の民間利用、JAMSTECが技術サポートを実施
――地球シミュレータは名前から気象や海洋のシミュレーションを対象にした専用機に感じられてしまうのですが、一般企業が利用することもできるのでしょうか?
上原氏 もちろんです(連載第7回の図10)。企業がスパコンを使うときに国がバックアップする先端大型研究施設戦略活用プログラムが2005年に始まったときに、当時の大学や公的研究機関では企業に有償でスパコンを貸すことが一般的でなかったこともあり、JAMSTECが先鞭をつけることになりました。当初は成果を公開してもらう必要がありましたが、研究内容は公開したくないという企業の声もあり、2007年に成果専有型(非公開)の制度をスタートさせ、2015年からは一本化しています。
――具体的にはどういった企業が成果を上げてきたのでしょうか?
上原氏 公開されている事例※1)しか紹介できませんが、例えば東芝が「流体構造大規模連成解析を用いた高性能ターボ機械翼等の設計法の開発」と題して大型蒸気タービンの解析に利用した他、大成建設が「二酸化炭素地下貯留に関する大規模シミュレーション技術の開発」と題して地下深部にCO2を圧入する方式の解析に利用しており、住友ゴム工業による「ゴム中のナノ粒子ネットワーク構造のモデル構築による高性能タイヤの開発」や、トヨタ自動車による「2BOX車型の車両空気抵抗低減技術の開発」などの研究に用いられました。
※)「地球シミュレータ産業戦略利用プログラム」利用成果報告書
――現在の利用制度を教えてください。
上原氏 計算資源の割り当てには幾つかの枠があって、そのうちの機構戦略枠の一部を産業利用として提供しています。産業利用は有償が前提ですが、事前評価として200CPUリソースセット時間積と200VEリソースセット時間積を無償で利用できる制度もあります。なお、産業利用ではGPU搭載ノードは対象外で、VE搭載ノードまたはCPUノードのみを提供しています。
地球シミュレータの産業利用制度の概要。3カ月間は無償で試用できる。なお、NECからはSX-Aurora TSUBASA向けに、電磁場解析、計算化学、構造解析、流体解析、AIフレームワークなどのアプリケーションやライブラリのサポート状況が提供されている※2)[クリックで拡大]出所:海洋研究開発機構
※2)SX-Aurora TSUBASAシリーズ アプリケーション一覧
――ES4のうちVE搭載ノードはベクトル型ですからソフトウェアの最適化も必要かと思います。利用に向けた講習会などはあるのでしょうか。
上原氏 講習会は毎年実施していますし、プログラムのチューニングや性能分析などの個別ユーザー向け技術サポートは原則無料で行っています。また、マニュアルなどを掲載したユーザーサポートページも用意しています。産業利用に提供している資源の枠は限られていますが、こういったサポートもあってかコンスタントに使っていただいていて、今でも年間で10件から20件ぐらいの利用があります。
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