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協調か競争か――Armとホンダが語るAI時代の「デファクトスタンダード」の行方組み込みイベントレポート(1/2 ページ)

Armはテクノロジーイベント「Arm Unlocked Tokyo 2025」を開催。オートモーティブ部門の対談セッションでは、本田技術研究所の小川氏を招いて「AI時代のモビリティ」について議論を交わした。

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 Armは2025年11月6日、東京都内でテクノロジーイベント「Arm Unlocked Tokyo 2025」を開催した。イベントのテーマには「クラウドからエッジまで、AIコンピュートの未来を共に創る」を掲げ、オートモーティブ、クラウド、インフラの3分野に分けて講演や技術セッションを行った。

 オートモーティブ部門では、本田技術研究所 常務執行役員先進技術研究所担当の小川厚氏を招き、Arm オートモーティブ事業部門プロダクト&ソリューション担当バイスプレジデントのスラジ・ガジェンドラ氏が「イノベーションが導く進化」と題した対談セッションを行った。対談では、ホンダの「ロボティクスの先行技術」が生むシナジー、AI(人工知能)進化に伴う「エッジ側の深刻な電力問題」、そして「フィジカルAIの未来像」まで、示唆に富む議論が交わされた。

 オートモーティブ部門の対談セッションの様子。(左)Armのスラジ・ガジェンドラ氏と(右)本田技術研究所の小川厚氏が議論を交わした
オートモーティブ部門の対談セッションの様子。(左)Armのスラジ・ガジェンドラ氏と(右)本田技術研究所の小川厚氏が議論を交わした[クリックで拡大]

「エッジに原子炉は積めない」、避けて通れない電力問題

 対談の冒頭、ガジェントラ氏が「AIがモビリティにもたらす変革」についてと問うと、小川氏は「大規模言語モデル(LLM)は、既に想像をはるかに超える変革をもたらしている」と評価した。ホンダでは、車両開発時の2Dデザインスケッチや、製造ラインでの品質チェック、振動解析、リサイクル時の材料仕分けなど、多様な分野でAIを活用している。

 同社は自動車からロボット、航空機、宇宙ロケットに至るまで多角的な製品を手掛けるが、小川氏によれば、異なる領域を意図的につなぎ合わせるトップダウンの戦略はないという。しかし、AI技術に関しては別だ。強力なシナジーが存在し、それがホンダの中核の強みになっている。

本田技術研究所の小川氏
本田技術研究所の小川氏

 例えば、現在、自動車分野で注目を集める「Vision-Language-Actionモデル」(視覚と言語を理解し行動するAI)は、ホンダは10年以上前にロボティクス分野で研究を開始していた。「つまり当社は、常にロボティクスの技術が自動車の技術を10年リードしている。ロボティクス分野で生まれたAIの先行技術を、モビリティ開発に活用することで、製品の競争力の源泉としてきた」と強調した。

 だが、この先行するAI技術を自動車に実装するには障壁もあるとして、ガジェンドラ氏は「計算処理と電力消費のバランス問題」を指摘した。

 小川氏も、電力消費の問題を喫緊で取り組むべき一番の課題と認める。特に、データセンターの電力消費もさることながら、車両やロボットなどエッジ側の電力消費がより深刻だという。

 「既にAIの主戦場は、クラウドにおける『学習』から、データ発生源に近いエッジデバイスにおける『推論』へと明確に移行している。今後、エッジ側の推論技術がより高度化すれば、車載AIが処理すべき演算回数はスマートフォンの100倍以上になる可能性がある。しかし、エッジに原子炉を積むわけにもいかない。早急な対応が必要だ」(小川氏)

 ホンダはこうした電力消費問題に対し、SoC(システムオンチップ)側での電力削減と、AIアルゴリズム側での演算回数を削減する2点で、対策を講じているという。

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