生成AIとアセットマネジメントで変える設備保全:設備保全DXの現状と課題(6)(3/3 ページ)
本連載では設備保全業務のデジタル化が生む効用と、現場で直面しがちな課題などを基礎から分かりやすく解説していきます。今回は、急速に普及する生成AIと、アセットマネジメントの視点から見た設備保全データの価値を取り上げます。
事例:老朽化した設備の効率的なメンテナンスに取り組む光和精鉱
光和精鉱は、製鉄用ペレットの製造とともに、産業廃棄物の処理を通じた環境負荷低減にも注力している企業です。1961(昭和36)年の設立以来、稼働している設備は60年以上が経過しており、老朽化が進んでいます。特に海に近い立地のため潮風の影響を受けやすく、工場設備の寿命が短いという難点も抱えています。
高温/高負荷な設備を運用している同社では、保全業務の効率化と情報の一元管理が長年の課題でした。従来は紙やExcelで管理していたため、個々人の記録の書き方にばらつきがあり、メンテナンスのための情報検索にも時間を要していました。
アセットマネジメントの基本構造に対応可能なクラウド型の保全管理システムを導入した後は、自社の持つ資産(設備、部品、人材)の価値をさまざまな角度で可視化できるようになってきています。
さらに、それらの重要な資産の価値を最大限に引き出すための効率化にもより素早く取り組むことができるようになっています。例えば、点検記録や修理対応記録は現場で直接入力され、即時に共有されるようになりました。これにより、現場のエンジニアは自分の机に戻ってからの二重入力の手間が削減され、より多くの情報を、より確実に入力/共有できる好循環が生まれています。
また、これまでは担当者しか把握できていなかった不具合を関係者全員が素早く共有できるようになったので、マネジメント組織がより迅速かつ確実に状況を把握し、修理計画をさらに効率的に立案できるようになりました。
設備ごとの履歴や部品交換状況も確認できるようになり、二重対応や情報の行き違いが減少し、突発停止リスクの抑制にもつながっています。これらの情報は構造化されているので、さまざまな粒度で把握/分析/対策を行えるようになっています。
例えば、点検表やチェックリストの記録を紙やExcelに記入していたときには、単なる数字が並んでいるだけの世界では見落としがちだった異常もあり、その異常に気が付くまで時間がかかっていたこともありました。
構造化されたクラウドシステム上では点検記録とスケジュールがつながっており、可視化されたグラフで変化や傾向の異常値にも気が付きやすくなります。どこのロケーションの、何の設備、どの部品が最もインパクトが大きいのかも数字で比較することができ、さらに稼働率を上げていくにはどこから取り組むのがより効果的なのかが、構造的に検討しやすくなっています。
まとめ:設備保全における生成AIとアセットマネジメント
本稿で強調したいのは、生成AIも設備データも「目的」ではなく「手段」であるという点です。そして、生成AIなどで得られる価値を、自社だけでなくパートナーや市場との共通言語として考えると、設備保全業務にまつわるアセットデータの価値は非常に重要なものであると言えます。
ISO55000が示すように、アセットマネジメントの本質は「資産の価値を最大化すること」にあります。生成AIはそのための強力な補助ツールであり、少人化社会においても持続可能なものづくりを支える存在となります。(連載完)
八千代ソリューションズ
COO(Chief Operating Officer 最高執行責任者)
山口修平
クラウド設備管理システム「MENTENA」の事業責任者。大手建設コンサルティング会社にて、国土交通省が管理する社会インフラ事業のシステムエンジニアとして、河川など国土基盤のメンテナンスを支援するシステムのコンサルティングに従事。2019年に新規事業創出の部門にて、「MENTENA」の立ち上げに参画。2024年に事業承継により八千代ソリューションズを設立、人材不足/技術伝承/設備の老朽化などの社会課題に対してサービスを展開中。
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