イチから全部作ってみよう(23)業務フロー図があれば“伏魔殿”も理解可能に:山浦恒央の“くみこみ”な話(192)(3/3 ページ)
ソフトウェア開発の全工程を学ぶ新シリーズ「イチから全部作ってみよう」。第23回は、円滑なソフトウェア開発に向けて発注側と開発側が相互に歩み寄るために生まれた業務フロー図について説明する。
4.ECサイトの業務フロー図
ECサイトの業務フロー図を作成すると、次のようになります(図4)。
図4は、次の業務フローを図で表しています。
- (1)ユーザーがサイトにアクセス/閲覧をする
- (2)商品をカートに追加する
- (3)顧客情報(住所、電話番号、メールアドレスなど)、支払情報(住所、配送方法)を入力する
- (4)注文ボタンを押下する
- (5)ECサイトが注文データを取得する
- (6)在庫チェック処理をする
- (ア)在庫がある場合は次の処理に進む
- (イ)在庫がない場合は、注文ボタン押下前に戻る
- (7)決済が可能な状態(クレジットカードの審査など)をチェックする
- (ア)決済可能な状態の場合は、次の処理に進む
- (イ)決済可能でない場合は、注文ボタン押下前に戻る
- (8)注文を確定する。また、注文確定時には、店側(店員としている)に注文メールを送信する
- (9)注文データを確認し、商品を梱包する
- (10)発送する
- (11)発送完了メールをユーザーに送信する
- (12)商品を受け取る
この業務フロー図を発注側と共有すると、「運用イメージが正しいか」「フローに抜けがないか」「異常系はないか」を詰めていくことが可能です。
5.業務フロー図作成の注意点
業務フロー図作成の注意点は、以下の2つです。
(1)粒度を意識する
ECサイトの詳細な流れを書くだけでも図が肥大化します。よって、ある程度大ざっぱに書き、階層構造の図にして、段階的に詳細化するといった書き方にしましょう。
(2)たたき台からヒアリングする
発注側に、「業務の流れを教えてください」と聞いても、系統的にうまく説明できず、なかなか話が進まない可能性があります。この場合は、開発側でたたき台となる業務フロー図を作成してヒアリングしましょう。
6.終わりに
今回は、業務フローに着目して、ECサイトの業務フローの作成方法と注意点を紹介しました。業務フロー図を活用すれば、全体の処理の流れを把握しやすくなります。さまざまな方法の一つとして選択肢に入れていただけるとありがたいです。
読者の皆さんは、自身がこれまで体験してきたアルバイトの経験を基に業務フローを作ってみてはいかがでしょうか。これにより、業務の流れとシステムの関係を俯瞰(ふかん)的に捉える訓練になり、一見関係のないアルバイトの経験が今後のソフトウェア開発で大いに役立つかもしれません。
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人間環境大学 環境情報学科 教授(工学博士)
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