コイルを用いた実験回路で微分積分の本質に迫る【微分編】:今岡通博の俺流!組み込み用語解説(17)(1/2 ページ)
今岡通博氏による、組み込み開発に新しく関わることになった読者に向けた組み込み用語解説の連載コラム。第17回は、コイルを用いた実験回路を使って微分の本質に迫る。
はじめに
連載第14回、第15回ではコンデンサーを用いた実験回路を使って微分積分の本質に迫ってみました。今回は、コンデンサーと並ぶ受動素子の基本要素であるコイルを使って微分の本質に迫ります。数式は一切出てこないので、数学が苦手という方でも気軽に読んでいただける内容になっています。
コイルは受動素子ナンバーワンの不思議ちゃんなのですが、これを用いてさらに摩訶不思議な微分積分に迫るわけでどうなることやら。
コイルとは
コイルは導線を巻いただけの電子部品ですがさまざまな不思議な動作をします。詳しくは以下の連載第13回をご覧ください。
コイルで微分ができるわけ
コイル(インダクター)の微分作用は、まるで「変化の速さを感知するセンサー」のようなものです。
コイルのちょっと頑固な性質
まず、コイルの基本的な性質から見ていきましょう。コイルは電線をぐるぐる巻いたもので、電気を流すと磁石のような性質を持ちます。そしてコイルは、電気を流していると「今流れている電流をそのまま維持しようとする」という、ちょっと頑固な性質も持っています。
例えば、電流値が変化せずにコイルに一定の電流が流れ続けている場合、コイルは「このままでいい」と感じるので特に何も起こりません。電圧も発生しません。
しかし電流値が変化するとき、つまりコイルに流れる電流が急に増えたり減ったりすると、コイルはその変化に抵抗しようとします。「おいおい、急に変わるなよ!」という感じで、その変化を打ち消す方向に、自分自身で電圧を作り出します。
「変化の速さ」と電圧
この「変化を打ち消す電圧」が、まさにコイルの微分作用の要となります。
変化が速いほど、電流値の増え方や減り方が速ければ速いほど、コイルが作り出す電圧は大きくなります。逆に変化が遅いほど、電流の増え方や減り方がゆっくりであるほど、コイルが作り出す電圧は小さくなります。変化がないときは電流が全く変化しない場合は、電圧はゼロになります。
つまり、コイルは、自分を流れる電流の「変化の速さ」を感知して、それに比例した電圧を発生させるのです。
コイルの微分回路とは
この性質を利用した回路を組むとコイルによる「微分回路」となります。
入力する電気信号(例えば電圧)が、時間とともにどれだけ急に変化しているか、という「変化の速さ」を、出力される電圧の大きさで教えてくれるようなイメージです。
例えば、スイッチを急に入れたり切ったりして電流を流すと、その瞬間にコイルは「急な変化だ!」と反応し、鋭い電圧のパルスを出力します。これは、急な変化(微分)を検出していることになります。
微分の実験回路
図1はコイルを使って微分の動作を確かめる回路です。
Lはコイルでインダクタンスは100mH(ミリヘンリー)です。
1Hは、1秒間に1Aの割合で変化する直流の電流が流れるときに1Vの起電力を生じるコイルのインダクタンスの値です。今回使うコイルは1Hの10分の1ということになります。Rは抵抗で560Ωです。
微分回路の特徴は入力から出力までの間に並列にコイルが挟まることです。連載第15回で紹介した積分回路でコンデンサーの代わりにコイルが入る配置になります。
INが入力でOUTが出力です。INに入力した信号をOUTの出力信号で観察します。それらを2現象のオシロスコープを使って、入力側の波形と出力側の波形を比較することでコイルによって引き起こされる微分現象を観測したいと思います。
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