シーメンスは3つの柱で製造業の複雑性に対応 TeamcenterはAI連携でさらに進化:メカ設計ニュース(1/3 ページ)
シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェアは、最新トレンドを踏まえた同社の戦略および国内外における採用事例を発表した。
シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア(以下、シーメンス)は2025年7月31日、都内で記者説明会を開催し、AI(人工知能)の活用をはじめとする製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の動向および同社ソリューションの有効性、そして国内外における最新の採用事例などを発表した。
来日した同社 プレジデント 兼 最高経営責任者(CEO)のTony Hemmelgarn(トニー・ヘミルガン)氏は、業界の最新トレンドを踏まえた同社の戦略について説明。また、同社 グローバル・セールス&カスタマー・サクセス担当 エグゼクティブ・バイスプレジデントのRobert Jones(ロバート・ジョーンズ)氏が、最新の国内外における採用事例を紹介した。
包括的なデジタルツイン/適応性/ライフサイクルインテリジェンス
製品開発や製造プロセスの複雑さが増す中、シーメンスは顧客が迅速に対応し、確信を持って意思決定できるよう、3つの柱を中核に据えて支援を行っているという。

シーメンスは「包括的なデジタルツイン」「適応性」「ライフサイクルインテリジェンス」の3つを中核に据えて複雑さの増す製造業を支援する[クリックで拡大] 出所:シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア
1つ目は、機械、電気、ソフトウェア、製造、エンジニアリング、オートメーションなど、各領域におけるあらゆる要素や振る舞いを統合的に仮想空間上で再現/管理できる「包括的なデジタルツイン」である。
この包括的なデジタルツインが現実世界と仮想世界のギャップを埋め、顧客に高い価値を提供するとし、「この領域にはこれまで大規模な投資を行ってきた」とヘミルガン氏は語る。最近では、約100億米ドルでAltair Engineering(以下、Altair)を買収し、非線形解析やHPC(高性能計算)、AIプラットフォーム「RapidMiner」などを統合して、CAE領域の強化を図っている。
2つ目の重要な要素は「適応性」である。同社は、スタートアップから大企業まで柔軟に対応可能なソリューションを提供し、変革リスクを最小限に抑えた業務移行を支援するという。
そして3つ目が「ライフサイクルインテリジェンス」である。シーメンスが展開し、世界中で多くの採用実績を持つPLMツール「Teamcenter」に蓄積されたデータをAI活用に展開することで、全社的な最適化につなげることを目指している。
TeamcenterのBOM戦略と構成管理
Teamcenterの強みは、EBOM(Engineering BOM)やMBOM(Manufacturing BOM)を含む全てのビューが、“信頼できる唯一の情報源(Single Source of Truth)”に基づいている点にある。また、近年注目されているエンタープライズBOM(製品ライフサイクル全体に関わるあらゆる情報を一元管理するBOM)にも対応しており、需要予測、調達、生産計画の基盤として活用できるという。
ヘミルガン氏は、「従来の多くのBOMシステムは、IBMのメインフレーム上に構築され、高度にカスタマイズされてきた。そのため置き換えが非常に困難な状況にある。産業データのうち、実際に活用されているのはわずか5%程度にすぎないという調査結果もあるが、これはデータの分断化やサイロ化が引き起こしている。レガシーなBOMシステムこそが、究極のサイロだ」と指摘する。
Teamcenterは、過剰なカスタマイズを必要とせずに導入できる点が特長であり、こうした数十年前に構築されたシステムの代替としても運用可能だという。
さらに、ヘミルガン氏は自動車業界を筆頭に、複雑な構成管理が求められる製品開発の現場において、Teamcenterがその強みを発揮できると強調する。「Teamcenterの製品構成管理の機能を活用すれば、従来のような巨大で非効率なBOMを使用する必要がなくなり、スピーディーかつ確信を持った意思決定と柔軟な対応が可能になる」と述べた。
AIとの連携によるTeamcenterの進化
ヘミルガン氏は、AIと連携したTeamcenterの進化についても言及した。AIの力を最大限に引き出すには、整合性、正確性、可用性を備えた堅牢(けんろう)なデータ管理が不可欠であるとし、2024年にTeamcenterへAIアシスタントの「Copilot」機能を搭載したことに触れた上で、AIプラットフォームのRapidMinerとの連携により、インテリジェントエージェントを構築したことを紹介した。
このエージェントは、例えば「最も多い問題は何か?」と尋ねると、Teamcenter内のデータを検索し、「このコネクターに関連する問題が最も多い」と回答する。さらに「このコネクターを置き換えられるか?」と聞けば、Teamcenterが部品を特定し、作業指示を生成、変更リクエストを起案し、コストやサプライチェーンのリスクを評価、類似部品を検索して、最適な代替案を提示する。そしてBOMも自動的に更新され、全てのプロセスが完全にドキュメント化されるという。
「非常に複雑な一連の作業が、AIによってシームレスに自動化される。Teamcenterは長年にわたり、変更管理やデジタルモックアップに活用されてきたが、単にデータをチェックイン/チェックアウトするといった利用だけでは、Teamcenterの真の価値を生かし切れているとはいえない」とヘミルガン氏は語る。
インダストリアルメタバースと対話型3D可視化
同社では、インダストリアルメタバースの取り組みの一環として、フォトリアリズム(写実的な3D可視化)を簡易かつ対話的に実現することも目指している。具体的には、NVIDIAの3Dデザインコラボレーション/リアルタイムシミュレーション基盤「Omniverse」と連携した「Teamcenter Digital Reality Viewer」を活用することで、BOMに基づいたフォトリアリスティックなシミュレーションが可能になるという。

Teamcenter Digital Reality Viewerを活用することで、BOMに基づいたフォトリアリスティックなシミュレーションが可能となる[クリックで拡大] 出所:シーメンスデジタルインダストリーズソフトウェア
作業者は、Teamcenterに対して「この断面を見せて」「この車両のリアルな外観を表示して」などと音声で指示するだけで、写真のようなリアルなビューを即座に表示できる。さらに「白い外装のバリエーションも見せて」「夕暮れのシーンに切り替えて」など、視覚体験を対話的にカスタマイズすることも可能だ。「これまでは多くのセットアップが必要だったプロセスが、即時かつ対話形式で完結できる」とヘミルガン氏は説明する。
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