ユーザーの「仕方がない」を解消 “小さな幸せ”を形にする究極の電源タップ:新製品開発に挑むモノづくり企業たち(11)(2/3 ページ)
本連載では、応援購入サービス(購入型クラウドファンディング)「Makuake」で注目を集めるプロジェクトを取り上げ、新製品の企画から開発、販売に必要なエッセンスをお伝えする。第11回は、PC/デジタル周辺機器メーカーのサンワサプライが開発した、縦にも横にも、自由な方向に差せる新型電源タップを取材した。
ユーザーの小さな不便を解決するための挑戦
――プロジェクトに出品した商材の特長を教えてください。
サンワサプライ 今回出品したのは、8個口のスリム形状電源タップです。最大の特長は、縦にも、横にも、間にも差せる独自の「車輪差し」構造を採用している点です。これにより、アダプター同士の干渉を避けつつ、無駄なく口を利用できます。また、コードの向きをそろえて差せるため、取り回しもすっきりと整えられます。
奥行き約3.1cmのコンパクト設計で、場所を取らずに設置しやすいのもポイントです。色はホワイトとブラックの2色を用意しています。また、USB充電ポート付きモデルもあるので、スマートフォンやタブレット端末の充電にもご利用いただけます。
開発のきっかけは、似たようなコンセプトの商品を見掛けた際、「これは自分たちも出さなければ」という強い思いが芽生えたことでした。特に重視したのは、ユーザーがこれまで「仕方がない」と受け入れていた不満を解消することです。
従来のタップではコンセントが一方向にしか差せず、アダプター同士が干渉して隣の口が使えなくなったり、コードが乱雑になったりする問題がありました。こうした課題を解決するため、約3年をかけて独自の「車輪差し」構造を開発しました。
――3年もの期間を要したのは、やはり技術面でのハードルが高かったからでしょうか。
サンワサプライ そうですね。最大の課題は、縦でも、横でも、間でも自由に差せる「車輪差し」構造を、安全かつコンパクトに実現することでした。電源タップ内部の金属端子は、通常は一方向差しを前提に安全距離を確保して配置しますが、この製品では多方向から差せるようにしながら、十分な絶縁距離を保つ必要がありました。
さらに、日本の電気安全法(PSE)の基準をクリアしつつ、奥行き約3.1cmの「TAP-SLIMシリーズ」と同等のスリムさを維持するため、絶縁材を効果的に使い、金属部品を高密度に安全配置する工夫を重ねました。設計チームは試行錯誤を繰り返し、結果として2倍の密度でも安全基準を満たす構造を実現しました。
――初日で400万円を超えるなど大きな反響がありました。Makuakeを利用したことで社内の商品開発/企画の考え方にも刺激になったのではないでしょうか。
サンワサプライ Makuakeでの反響は予想以上で、多くの応援メッセージや、「オン/オフできるスイッチを付けてほしい」「マグネットを付けてほしい」といった具体的な要望もいただき、次の開発への大きなヒントになりました。
また、リターンとして用意した2個セットのうち、色違いの組み合わせが予想外に好評だった点なども、今後の販売戦略やプロモーションを考える上での大きな学びとなりました。
Makuakeの活用を決定する前から意匠権の取得などは進めていましたが、「これまでにない構造の製品が本当に受け入れられるのか?」という不安もありました。また、当社が普段取り扱うタップより価格が高いこともあり、市場の反応を確かめたいという狙いもありました。
そうした中で、リアルなお客さまの要望を知ることができたのは非常に有意義でした。そして、当たり前に使われている電源タップの“小さな不便”を解消するという、「ちょっとした幸せ」を届けるモノづくりの大切さをあらためて実感することができました。
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