ベクタースキャンディスプレイとは:今岡通博の俺流!組み込み用語解説(16)(2/2 ページ)
今岡通博氏による、組み込み開発に新しく関わることになった読者に向けた組み込み用語解説の連載コラム。第16回は、微分積分の本質に迫るシリーズの一環として「ベクタースキャンディスプレイ」について解説する。
ブラウン管の全体の動作
ブラウン管の全体の動作としては、ヒーターがカソードを加熱すると、カソードから電子が放出されます。
次に、コントロールグリッドが電子の量を調整して明るさを制御します。アノードが高い電圧で電子を加速し、高速の電子ビームが形成されます。
集束コイル(または集束アノード)が電子ビームを細く集束し、偏向コイルが電子ビームを水平/垂直に偏向させて、画面上の任意の位置に電子ビームを導きます。電子ビームが蛍光面に衝突すると、蛍光体が発光し、点となって表示されます。
これらの一連の動作により、ブラウン管は電気信号を光による映像へと変換する役割を果たしていました。
ベクタースキャンディスプレイ
ベクタースキャンディスプレイ(またはランダムスキャンディスプレイ、点描画ディスプレイ)は、現代の私たちが慣れ親しんでいるラスターディスプレイ(テレビやPCのモニターのように、画面全体を走査して画像を形成する方式)とは根本的に異なります。
点を描画するときは、ブラウン管(CRT)の電子ビームを画面上の任意のX−Y座標に直接向けて行います。
線を描画するときは、2つの点の間に電子ビームを直線的に移動させることで、線を描画します。つまり、コンピュータが「点Aから点Bへ線を引け」という命令を出すと、ディスプレイはその指示に従って実際に線を引くのです。
ベクタースキャンディスプレイの特徴は(相対的に)高解像度であることでした。必要な部分だけを描画するため、当時の技術では、ラスターディスプレイよりもはるかに高解像度の描画が可能でした。PDP-1のType 30 CRTディスプレイは、1024×1024のアドレス指定可能な位置を持っていました。
表示された画像は残像を利用します。蛍光体の残光によって一時的に保持されますが、時間が経過すると消えてしまうため、プログラムによって常に画像をリフレッシュ(再描画)する必要がありました。
PDP-1とベクタースキャンディスプレイ
PDP-1とベクタースキャンディスプレイの組み合わせは画期的なものでした。
この組み合わせは初期のコンピュータグラフィックスを実現しました。それまでのコンピュータの出力は、主にプリンタによる文字の印字や、パンチカード、紙テープなどが主流でした。PDP-1とベクタースキャンディスプレイの組み合わせによって、コンピュータが視覚的なグラフィックをリアルタイムで生成し、表示できる可能性を示しました。これは、現代のグラフィックスの祖先ともいえるでしょう。
また、この組み合わせは対話型コンピューティングの先駆けでした。グラフィカルな表示が可能になったことで、ユーザーはより直感的にコンピュータと対話できるようになりました。ライトペン(ディスプレイ上の点を指示できる入力デバイス)なども利用され、現在のマウスやタッチスクリーンに通じる対話性の原型が生まれました。
ベクタースキャンで動作するゲーム
図3はCRTタイプのオシロスコープでゲームをしているところです。
おわりに
この流れで行くと、CRTタイプの旧式オシロスコープでリサージュ曲線を披露しなければなりませんが、そのような骨董品を手に入る当てはなさそうです。次回はどういう話になるのか、ご期待ください。
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