これからの「ひとのモデリング」 〜“もの”も“ひと”も共通の表現式で〜:1Dモデリングの勘所(45)(4/6 ページ)
「1Dモデリング」に関する連載。最終回となる連載第45回では、「ひとのモデリング」をテーマに、これまでの課題と解決法、そして、これからのひとのモデリングと、今後のモデリングの姿について解説する。
聴覚の個人差
ひとの聴覚特性を図6に示す。これは、多数のひとの聴覚特性を平均化して求めたものである。周波数特性を有するとともに非線形であり、音の元になっている音圧とは大きく異なる。
図7に耳の構造を示す。
音圧は耳介によって集音され、外耳道を通って鼓膜を振動させる。鼓膜の振動は耳小骨(ツチ骨⇒キヌタ骨⇒アブミ骨)を介して卵円窓に伝わり、蝸牛内のリンパ液を加振する。さらに、蝸牛内の基底膜を介して聴覚神経を通じ、最終的に脳へと伝達される。なお、図中には三半規管も描かれているが、これは聴覚には直接は関係しない。
音の伝達経路を図8に示す。
音は音源から空気伝搬して人体に到達するが、人体そのものが音の伝達関数となっており、図7に示すようにひとの各部形状(頭部、胴体、肩、耳介)が影響する。図6の1〜2kHz付近の凸部分はこの頭部伝達関数の影響である。
また、耳介を通って外耳道に到達した音は、図9に示すように、外耳道の長さに応じた定在波によって変換される。例えば、外耳道の長さが2.5cmの場合、音速を毎秒340mとすると、3.4kHzの定在波の影響を受ける。図6の3kHz付近のへこみはこの影響と考えられる。
さらに、耳小骨では図10に示すように、てこの原理と面積の関係によって、鼓膜に到達した音の圧力が、蝸牛の入り口である卵円窓で約20倍に増幅される。
蝸牛内では、この圧力を入力として、図11に示すように蝸牛内のリンパ液が加振され、基底膜を励振する。このとき、周波数に対応した基底膜部が共振し、これが電気信号となって、聴覚神経⇒脳(認知)へとつながっている。
このように、聴覚における前半部分は物理的に定義でき、個人差を含めた物理モデリングが可能である。
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