これからの「ひとのモデリング」 〜“もの”も“ひと”も共通の表現式で〜:1Dモデリングの勘所(45)(2/6 ページ)
「1Dモデリング」に関する連載。最終回となる連載第45回では、「ひとのモデリング」をテーマに、これまでの課題と解決法、そして、これからのひとのモデリングと、今後のモデリングの姿について解説する。
音のデザイン(音のモデリング)参考文献[1]
音のデザインとは、音の視点で製品に価値を取り込む方法である。製品音のデザインプロセスを図3に示す。
対象とする製品を音の視点から分析し、顧客ニーズを抽出する。目指すべき方向が決まったら、目指すべき音を皆が共通言語として理解できる“音のものさし”として表現する。
次に、音のものさし上に目標音を設定(この段階で目標音は仮想音として実際に聴くことができる)し、この目標音を実現すべく製品設計を行う。
今までは、音は騒音として扱われ、ひとにとって「小さい方が心地よい」との前提に立って、製品の開発が行われてきた。しかし、実際には、騒音レベル(後述)が同じであっても、聞いたときの印象は大きく異なる。この点に早くから着目していた西欧の音の研究者は、長年の研究を経て、ひとの聴感を4つの指標で定義した。これを「音質指標」という。この音質指標とSD(Semantic Differential)法を用いて定義したのが、音のものさしである。
図4に、音のものさしの作成例を示す。
ここでは、ある家電製品を対象に“心地よい音”を目標とし、10機種の製品音を取得して、4つの音質指標を算出し、それらに主成分分析を適用している。そして、得られた主成分1および主成分2を、それぞれ物理指標1および物理指標2とし、2次元マップ上にプロットしている。
一方、複数の形容詞対によるSD法を、複数の被験者に適用して、その結果を主成分分析し、このとき得られた主成分1を官能指標とした。次に、この官能指標と上記の物理指標1および物理指標2との関係を重回帰分析で求めた。
この結果を2次元マップにしたのが図5である。
縦軸に物理指標1を、横軸に物理指標2を取り、官能指標と物理指標1および物理指標2との関係を斜めの点線で示している。この場合、官能指標の値が小さいほど心地よい音を意味するため、右下に行くほど心地よい音であるといえる。
10機種のクリーナー音に関して、物理指標と官能指標を関連付けて示したものが、クリーナー音のものさしである(図5左図)。この結果から、10機種の音が物理指標空間において、かなり広範囲にばらついて分布していることが分かる。当然ながら、図上で近くに位置する機種音同士は、聴感上も似ている。物理指標は音質設計(製品設計)に直接結び付く要因であり、設計の可能性を大きく秘めていることが分かる。
通常の騒音レベルで10機種の音を評価した結果と比較すると、例えば、騒音レベルでは機種音A、E、Jの間にあまり差がないが、この3者には大きな開きがある。また、騒音レベルでは機種音IとJの間に差があるが、音のものさし上ではIとJは比較的近接している。このように、従来の騒音レベルによる評価は、ある程度、ひとの聴感を考慮しているものの、ここで扱っているような製品音の音質評価には不十分で、4大基本指標などを駆使した音質評価が必要であることを意味する。
図5右図に示すように、音のものさし上に、現状音⇒目標音⇒試作品⇒最終製品という流れで配置し、従来製品よりはるかに心地よい音を持つ製品を実現した。この実現の背景には、目標音を具体的に提示し、仮想的に作成した目標を開発に関わる技術者全員で共有できたことが大きい。
参考文献:
- [1]大富浩一|製品音のデザイン|東芝レビュー Vol.62 No.9(2007)
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