AIに“身体”を与える──京都ヒューマノイドアソシエーション「KyoHA」が始動:ロボット開発クローズアップ(1/3 ページ)
「京都ヒューマノイドアソシエーション(KyoHA)」が活動開始の記者発表を行った。早稲田大学、テムザック、村田製作所、SREホールディングスが中核となって、純国産のヒューマノイドを社会実装し、日本を再び「ロボット大国の最前線」へと押し戻すプロジェクトが始動した。
2025年6月30日、京都市内で「京都ヒューマノイドアソシエーション」の活動開始の記者発表が行われた。かつて世界を驚かせた日本のヒューマノイド研究は、いつしか影を潜め、中国や米国の背中を追う立場へと追いやられている。だが今、その流れに終止符を打つべく、京都で産学連携による“最後の集結”が始まった。
京都ヒューマノイドアソシエーション(以下、KyoHA:キョウハ)。それは、純国産のヒューマノイドを社会実装し、日本を再び「ロボット大国の最前線」へと押し戻すための連盟だ。早稲田大学、テムザック、村田製作所、SREホールディングスが中核となり、志ある企業、研究者、開発者を広く巻き込む壮大なプロジェクトが始動した。
本稿では、記者発表で語られた登壇者たちの熱い言葉を追いながら、このプロジェクトが何を目指し、どこへ向かおうとしているのかを読み解いていく。
ヒューマノイド研究の第一人者である早稲田大学の高西淳夫氏が理事長に就任
記者発表は、早稲田大学 教授で同大 ヒューマノイド研究所の所長であり、日本におけるヒューマノイド研究の第一人者である高西淳夫氏のあいさつで始まった。高西氏はオンラインで参加しつつも、熱意と迫力ある言葉でヒューマノイドの「身体性」の重要性を訴えた。
高西氏は、1960年代に始まった早稲田大学でのヒューマノイド開発の歴史を振り返り、産業オートメーションが進んだその先に来るべき「サービス提供機械の時代」を見据えていた先人である同大 教授の加藤一郎氏のビジョンを紹介した。
「『人間の動きを理解するためには、まず人間の身体構造を模倣した機械(ヒューマノイド)を作る必要がある』というアプローチから出発し、実際に社会実装まで進めてきた歩みがある。ヒューマノイド研究は当初『役に立たない』とやゆされ、早稲田大学内でも理解されなかった。しかし、『人間は身体と知能の両輪でできている』いう考えをベースに、研究は粘り強く続けられてきた」(高西氏)
今、世界中でAI(人工知能)が爆発的に進化している。その一方で、“体を持つAI”が本当に社会で役立つためには「その身体(ハード)が人間並みの多様性と機能を備えている必要がある」(高西氏)という。
筋肉、腱、関節、柔軟性、剛性、さらには触覚/視覚のような感覚まで、現代のロボット技術ではまだ人間の足元にも及ばない部分が多いことを、高西氏は実例を交えて示した。
例えば、人間は640本の筋肉と206個の骨、そして400万点以上の皮膚感覚を駆使して行動する。ロボットがこれを模倣しようとすれば、センサー数、アクチュエーター数、制御系が爆発的に増える。高西氏は「だが、それこそが『本当に社会で使えるヒューマノイド』を実現する鍵である」と説く。
生成AIやソフトウェアがどれほど進化しても「行動のデータ」は“身体”を通してしか得られない。高西氏は「つまり、動き、感じ、学習するための“実体”がなければ、AIは成長できないという本質的な限界がある」と断言する。
特に、AIによる言語生成や認識にとどまらず、「身体を通じた経験」がAIにとっても重要になるという観点は、AIとロボットの未来をつなぐキーポイントといえる。
今回の拠点を京都に置いた理由として、高西氏は、これまで長年にわたってテムザックとヒューマノイド共同研究を行ってきたことや、医療教育用ヒューマノイドを開発する京都の企業との連携の蓄積を挙げた。また、京都発の医療トレーニング用ヒューマノイドは、既に海外輸出もされており、その社会的意義と技術的水準は世界に通用する。「だからこそ『京都から世界へ』の一歩を踏み出すにふさわしい場である」(高西氏)とした。
高西氏は、オールジャパン体制で“人と共に働くロボット”の未来を切り開く覚悟を語り、自ら理事長を引き受けた決意を込めてあいさつを締めくくった。
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