なぜあの会社はうまくいったのか? 中小製造業のためのデジタル化ステップ:これからの中小製造業DXの話をしよう(6)(2/2 ページ)
本連載では、筆者が参加したIoTを活用した大田区の中小製造業支援プロジェクトの成果を基に、小規模な製造業が今後取り組むべきデジタル化の方向性や事例を解説していきます。第3〜5回は実際の中小製造業におけるデジタル化の取り組み事例を紹介しましたが、今回はそこから見えたポイントについてまとめます。
(3)成功企業に共通する3つのポイント
中小製造業といっても、取り組むべきデジタル化の内容は各社で異なります。共通するポイントと個別に検討すべき点に分けて整理してみましょう。
共通ポイント
- 他社の事例を参考にする:同業他社の成功事例から、自社に適したツールや導入方法を学ぶことができます。知人やITベンダーへの相談、製造業向けの事例紹介サイトの活用も有効です。
- 段階的に導入する:最初から大規模な導入は避け、小さな範囲で効果を確認しながら徐々に拡大していくことが望ましいです。現場の反応を見ながら進めることで、リスクを抑えた導入が可能になります。
- シンプルで直感的に操作できるツールを選ぶ:現場のITリテラシーを考慮し、複雑な操作を必要としないツールを選ぶことで、定着率が上がります。
企業ごとに異なるポイント
- 自社の課題と目的を明確にする:業務プロセスを分析し、どこに課題があるか、何を改善したいのかを明確にすることが第一歩です。
- 成長フェーズに応じたシステム選定を行う:従業員数や工場規模、現在の成長段階に応じて、次期システムを視野に入れるのか、現行システムを活用するのか方針が変わります。
なお、実際のツール選定時には「多すぎて選べない」「機能が多すぎて混乱する」という声も聞かれます。最近では多くのツールがクラウドで提供されており、無料で試せるものも多く存在します。まずは試用し、合わなければ断る、合いそうであれば話を聞いてみる。このように少しずつ自社に合う目を養っていくことが重要です。
(4)小さく始めて大きく育てる! 明日からできるデジタル化ステップ
最後に、デジタル化をこれから進めたいと考えている中小製造業に向けて、実践的なステップを紹介します。
- 目的と課題を明確にする:「周囲がやっているから」ではなく、自社にとっての具体的な課題(例えば、事務作業が煩雑、図面が探しにくい、協力会社との管理が大変など)に着目し、デジタル化の目的を整理しましょう。
- 小さなところから始める:まずは紙で行っている作業をExcelや無料ツールに置き換えるなど、取り組みやすい範囲から着手します。効果を確認しながら段階的に広げていくことがポイントです。
- ツールを試してみる:情報収集を行い、無料トライアルを活用して実務に合うかどうかを確認します。導入に関わる現場社員の意見を取り入れることも重要です。
- 補助金を活用する:本格導入時には、IT導入補助金などの公的支援を活用することで、初期投資の負担を軽減できます。
- 社内で推進チームをつくる:最初は社長が旗振り役となり、その後、総務や経理部門を巻き込んで進め、最終的には現場や営業部門へと展開します。現場、営業部門の巻き込みには一定の時間と工夫が必要なので、焦らず段階的に進めましょう。
(5)まとめ
本稿では、中小製造業がどのようにデジタル化を進めていけばよいかを、マクロ、ミクロの両面から整理しました。特に小規模企業が直面する課題に対して、具体的な事例を通じてその対応策をお伝えしました。
次回は、小規模工場の現場に入り込み、現場視点から最適なツール開発を進める企業「ドラムロール」の取り組みをご紹介します。町工場とベンチャーの共創によるリアルな実践例にご期待ください。
⇒連載「これからの中小製造業DXの話をしよう」のバックナンバーはこちら
辻村裕寛(つじむらやすひろ)
ネクサライズコンサルティング 代表取締役兼 産業能率大学 総合研究所兼任講師
【資格】
経済産業大臣認定 中小企業診断士、PMI認定PMP、認定経営革新等支援機関
ITベンチャー、リコーテクノシステムズ、日立コンサルティングなどのIT/コンサル業界での経験を経て、2024年4月に独立しました。「企業と働く人へのコンサルティングを通じて、持続可能な変革を促し、新たな価値を創出する。そして、日本経済を持続的な成長が可能な形に変えていく」というビジョンを胸に、日々活動しています。
コンサルティングサービスによる企業支援と並行して、コンサルティング現場から得られた示唆、時代に求められることをLive感あるコラムで発信中。並行して、組織・従業員への研修/セミナーにより内部から成長を促進する企業への変革をお手伝いしております。こうした活動を通して、現在、そして、これからの人たちが働きやすく・過ごしやすい社会の構築を目指しています。従業員へのセミナーでは現役世代だけではなく、50代半ばからの出口戦略をともに考え作り上げるサービスを提供することで、高齢化社会だからできる社会構築のお手伝いをしております。これらを通じて、日本のGDP改善の実現に貢献してまいります。
著書として、今回連載するコラムのもとになったプロジェクトの詳細を記載した『中小企業のまち大田区からはじまる ものづくり日本再興プロジェクト』(ダイヤモンド社)がございます。
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