ルネサスが“マイコンでAI”を極める、22nmプロセスとMRAMにAIアクセラレータも:人工知能ニュース(2/2 ページ)
ルネサス エレクトロニクスが同社のArmコア搭載マイコン「RAファミリ」の第2世代品となる「RA8P1」について説明。TSMCの22nm ULLプロセス、MRAM、ArmのAIアクセラレータIP「Ethos-U55」を採用しており同社Armマイコンのフラグシップに位置付けられる。
22nm ULLプロセスの採用により最大動作周波数は1GHzに到達
RA8P1は、ルネサスが2023年12月に発表した「RA8M1/RA8D1」と同様にArmの最先端マイコン向けプロセッサコアである「Cortex-M85」を採用している。ただし最大動作周波数は、40nmプロセスのRA8M1/RA8D1が480MHzだったのに対し、22nm ULLプロセスに変更したRA8P1は2倍以上の1GHzに到達している。また、22nm ULLプロセスは低消費電力も特徴であり、1MHz当たりの消費電流はRA8M1/RA8D1が318μAだが、RA8P1は151μAに抑えられている。つまり、RA8P1は1GHzの最大動作周波数で使用しても、RA8M1/RA8D1と消費電流は同等になる計算だ。さらに、RA8P1のコア電圧はRA8M1/RA8D1から20%下がっているため消費電力も20%分抑えられることになる。
RA8P1はCortex-M85に加えてオプションで「Cortex-M33」も追加できる。最大動作周波数1GHzのCortex-M85と同250MHzのCortex-M33によるCPU処理性能はCoreMarkで7300以上となっている。そして、“マイコンでAI”を実現するために搭載したEthos-U55のAI処理性能は500MHz動作で256GOPS(Giga Operations Per Second)である。「Cortex-M85、Ethos-U55をそれぞれ採用する製品は既に市場に幾つかあるが、両方を採用する製品はRA8P1が初になるだろう」(葛西氏)。
22nmプロセスへの移行に合わせて、不揮発メモリを従来のフラッシュメモリ「SG-MONOS」からルネサスが開発を重ねてきたMRAMに変更した。
メモリ容量はMRAMが1MBもしくは512KB、SRAMが2MBとなっている。マイコンでは一般的にSRAMよりも不揮発メモリの方が容量が大きいものの「フレームバッファーやAI処理のためにより多くのSRAMの容量を求めるニーズがありRA8P1では逆転した」(葛西氏)という。なお、より大容量の不揮発メモリが必要な場合は、4M/8MBのフラッシュメモリのチップをSIP(System in Package)で集積するオプションを用意しており、Octal SPIインタフェースや32ビット外部バスインタフェースで外付けメモリを接続することも可能だ。
ビジョンAIやボイスAIへの対応を重視しているため、パラレルカメラ入力とMIPI-CSI2、シリアルサウンド入力とPDMによる音声入力などが可能な周辺機能も集積。16ビットA-Dコンバーター、グラフィックスHMI機能などもそろえている。
RA8P1のAI処理性能を分かりやすく示すため、さまざまなAIモデルについて動作周波数1GHzでCortex-M85単体で処理する場合と、同500MHzでEthos-U55で処理する場合を比較しており、9倍から35倍の性能向上を確認している。
なお、RA8P1による“マイコンでAI”の処理については、Ethos-U55でAIモデルの推論処理を行いつつ、Cortex-M85とベクター演算処理機能「Helium」の組み合わせでカメラや音声のデータなどの前処理/後処理を行うことを想定している。
RA8P1の発売に合わせて、ルネサスとして初となるマイコン/MPU向けの包括的なAI開発用フレームワーク「RUHMI(Renesas Unified Heterogenous Model Integration、ルミ)」の提供を開始する。EdegCortixの「MERA 2.0」を採用したAIコンパイラにより、マイコンとMPUに最適な形でAIモデルを実装することが可能になる。マイコン向けでは統合開発環境「e2studio」のプラグインとして、MPU向けではWindowsやLinux向けのCLI(コマンドラインインタフェース)として提供される予定だ。今後投入されるルネサス製品のAI開発用フレームワークはRUHMIに統一されることになる。
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