政策主導の半導体バブルが終焉へ、米国は設計開発重視のSTAR法案に方針転換:ポスト政策主導時代を迎える半導体市場(1)(2/3 ページ)
半導体に関する各国の政策や技術開発の動向、そしてそれぞれに絡み合う用途市場の動きを分析しながら、「ポスト政策主導時代」の半導体業界の姿を提示する本連載。第1回は、ポスト政策主導時代の震源地となっている米国の動向を取り上げる。
2.CHIPS科学法の継続可否を巡る米国内の議論
2026〜2027年に主要施策の期限が迫る中、足元では米国内においてCHIPS科学法による半導体産業への支援を何らかの形で継続するか否かの議論が進んでいる。しかし、先述の通りCHIPS科学法の成果を疑問視する声も多く、現行の国内製造設備投資に関わる巨額の補助金政策はいったん収束する可能性が高そうである。
CHIPS科学法に対する主な批判としては以下の3点が挙げられる
- (1)申請から給付までの手続きの遅延
- (2)建設事業者/人材不足による給付決定後の着工/工期の遅延(資金以外のボトルネックの存在)
- (3)主要半導体製造国における政策資金競争による相対的な競争優位性の希薄化
2025年1月に再び米国大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、半導体企業への直接的な補助金よりも、外国製半導体チップへの関税導入が国内製造を促進すると主張しており、就任前から大規模な補助金に対して否定的であった。加えて、CHIPS科学法の効果を疑問視する声がこうした否定的な姿勢を後押ししている。
また、巨額の補助金による財政負担を懸念する声も高まっている。ピーターソン国際経済研究所(PIIE)によれば、CHIPS科学法による税額控除のコストは2026年までに730億米ドルを超える可能性があり、当初の予算見積もりを大幅に上回るとされる。加えて、先述の通り米国内製造投資の遅れから、東アジアに対する半導体製造の劣位は当面継続することが明らかである。これらが示すように、2026年以降もCHIPS科学法と同等の半導体産業に対する巨額の補助金政策を継続させることへのハードルは高いといえる。
一方で、軍事/技術/経済面で米国の優位性を保持するために、半導体産業向けに何らかの助成政策を継続すべきとの議論もある。CHIPS科学法の後も半導体に関わる産業政策が必要だとする継続支持論の主な主張は、以下の3点に集約される。
1点目は、中国による先端技術獲得の脅威に対抗するために、米国の先端半導体を含む先端技術領域での優位性を維持する政策を継続すべきというものである。こうした主張は共和党において、CHIPS科学法の共同提案者でもある上院議員のトッド・ヤング氏らが先導している。※1)
2点目は、重要産業である半導体産業を維持/発展させるためには投資を継続する必要があるという業界の主張である。米国半導体産業協会(SIA)は、CHIPS科学法の税額控除制度により、米国内の半導体製造能力が2032年までに3倍以上に拡大する見込みであると評価し、継続的な産業政策の必要性を打ち出している。※2)
そして3点目は、半導体政策を継続することによって、米国内、特にアリゾナ州など製造地における雇用創出を維持/拡大させるべきだという主張である。ニューヨーク州ビジネス評議会によれば、CHIPS科学法により同州内で1200億米ドル以上の民間投資が誘発され、ファウンドリーへの80億米ドルの資金提供が行われたとされる。これにより、2030年までに約50万人の半導体関連雇用が創出されると予測されている。※3)
※1)カーネギー財団レポート「After the CHIPS Act: The Limits of Reshoring and Next Steps for U.S. Semiconductor Policy」を参照。
※2) SIAは、STAR法案に賛意を表明したプレスリリース(2025年1月28日)において、CHIPS科学法の継続措置の必要性を主張している。
※3)TimesUnion、2025年4月30日の記事を参照。
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