生成AI活用の社内アプリを開発、品質トラブルデータ約4000件から情報収集:製造IT導入事例
日本精工は、生成AIを使った社内向けの品質トラブル参照アプリケーションを開発し、運用を開始した。蓄積した過去の品質トラブルデータ約4000件を基に、グラフで可視化して生成AIが要約する機能を備えている。
日本精工は2025年6月23日、生成AI(人工知能)を使った社内向けの品質トラブル参照アプリケーションを開発し、同月から運用を開始したと発表した。国内社員約5000人以上が利用を始めている。
同アプリは、蓄積した過去の品質トラブルデータ約4000件を基に、グラフで可視化して生成AIが要約する機能を備えている。製品に関わるさまざまな分野の社員が、迅速に情報を収集して活用できるようになるという。
セキュリティ対策のため、同社専用の環境を構築。もっともらしいが事実とは異なる情報を生成AIが作り出してしまうハルシネーションなどのリスクを想定し、AI品質コントロールや業務運営のルールを策定して運用に当たっている。
従来、品質トラブルに関するデータは、専用のデータベースやレポート形式で管理していた。形式が統一されておらず専門性が高いため、因果関係の解明が困難だった。そこで同社は、製品開発や工程設計における検証時に発生した品質トラブルやノウハウに関するデータを、テーブル構造で蓄積する取り組みに着手。2024年10月からテーブル構造のデータを生成AIで処理する技術検証を開始し、アジャイル開発の手法を導入して機能設計から正式導入まで約半年でアプリを完成させた。
同アプリでは、直感的なUIを採用し、データ構造を維持しながら生成AIを活用。アプリを利用する社員の経験や知識レベルに依存せず、調べたいデータへ簡単にたどり着けるように仕上がった。生成AIで情報を要約するのにかかる時間は約30秒だという。
2025年6月から、設計や製造、品質保証などの業務に携わる社員が利用を開始。今後は、営業や物流などの部署にも提供範囲を拡大する計画だ。回答精度の向上や調べたいデータの検索性向上などの機能拡充も予定している。さらに、国内だけでなく、海外拠点への展開も視野に入れている。
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