樹脂と解析の知見を外へ あらゆる設計課題に寄り添う旭化成のCAEサービスとは:CAE最前線(3/4 ページ)
旭化成は、長年培ってきた樹脂の知見とCAE技術のノウハウを生かし、「CAEサービス」を立ち上げ、PoCを通じた展開を進めている。中でも、軽量化に効果を発揮するトポロジー最適化の活用に注力しており、これまで接点のなかった顧客層も含めて、設計支援の取り組みを外部にまで広げていく方針だ。
旭化成独自のノウハウが凝縮されたトポロジー最適化
トポロジー最適化を部品設計に適用する際の基本的な流れは、まず初期形状モデルに対して設計空間を設定し、トポロジー最適化を実施する。その結果を基に、実際に成形可能と思われる形状を作成し、構造解析とトポロジー最適化のサイクルを複数回しながら、最終的な提案形状を導き出していく。構造解析とトポロジー最適化のサイクルを繰り返す工程が、まさに最適な形状を導くためのトライ&エラーであり、ここに旭化成の独自のノウハウが凝縮されている。
同社製のガラス繊維強化ポリアミド(PA)66を用いた自動車用ブレーキブラケットに、トポロジー最適化を適用した例では、初期モデルの重量が647gだったのに対し、提案モデルでは482gと約25%の軽量化を実現。必要な強度を維持しつつ、大幅な軽量化を達成している。
「最終的な提案モデルの形状は、外観としては閉じたボックス型で、内部は中空構造となっている。一見すると重そうに見えるが、実際にはこのようなクローズドな形状の方が高い強度を確保できることが、トポロジー最適化によって示された。板厚についても、初期モデルより提案モデルの方が薄く設計されており、軽量化に貢献している」と高村氏は説明する。
一般的に、トポロジー最適化は等方性材料を前提として最適化計算が行われる。しかし、今回使用されたガラス繊維強化PA66は異方性を有する材料であり、最適化後の形状に対して、繊維配向が構造に与える影響を精密に検証する必要がある。
そこで、射出成形時の繊維配向を流動解析によって予測し、その結果を構造解析に反映させるプロセスも取り入れている。トポロジー最適化によって導かれた設計案が、実際に成形可能であり、なおかつ所定の強度を満たすかどうかを検証した上で、最終形状へと落とし込んでいる。
「ガラス繊維を含む材料では、異方性の影響により局所的に強度が不足する箇所が現れることがある。流動解析と連携し、ゲート位置の最適化を含めて繊維配向の影響を考慮しながら、強度を担保できる形状へと仕上げていく必要がある」と工藤氏は語る。
この他にも旭化成では、従来多くの時間を要していたリブの立て方や配置に関しても最適化設計を行っており、「最適かつ成形できるリブの設計を短期間で実現可能だ」(高村氏)という。
ライフサイクルアセスメントを取り入れた支援も
旭化成が提供するトポロジー最適化を活用した樹脂部品の設計支援は、単に部品の軽量化を実現するだけにとどまらない。将来的には、軽量化によってどれだけCO2や温室効果ガス(以下、GHG)の排出量削減につながるのかを定量的に示すライフサイクルアセスメント(以下、LCA)の考え方を取り入れたサービスの提供も視野に入れているという。
LCAとは、製品の原材料採取から製造、使用、廃棄に至るまでの各段階で、環境に与える影響を評価する手法である。具体的には「樹脂1kg当たりでどれだけのCO2が排出されるか」をGHG排出係数(LCAデータベース)として数値化し、製品のライフサイクル全体にわたる環境負荷を定量的に評価する。
例えば、先に紹介した自動車用ブレーキブラケットの場合、トポロジー最適化によって約25%の軽量化(647g→482g)を実現したことで、1部品当たり約2.73kgのCO2排出量削減につながるという。「仮に、この部品が年間100万個生産される場合、総計で約2730t(トン)のCO2削減が見込まれることになる。今後、製品ごとのCO2排出量削減の達成がメーカーに義務付けられる可能性もある中で、軽量化による環境貢献の効果を定量的に示すことは非常に大切だ」と高村氏はLCAの重要性を強調する。
このように、LCAの視点を取り入れた設計支援は、トポロジー最適化の価値をさらに高めるものであり、環境負荷低減が求められる設計者にとって有用な指標となることが期待されている。
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