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製紙業はパルプから紙ではなくエタノールを作る!? 王子のパイロットプラント完成モノづくり最前線レポート(2/3 ページ)

王子ホールディングスは、鳥取県米子市の王子製紙米子工場内に、木材パルプから糖液やバイオエタノールを生産するパイロットプラントが完成したと発表した。

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事業ポートフォリオ転換の第一歩

王子ホールディングス 代表取締役社長の磯野博之氏
王子ホールディングス 代表取締役社長の磯野博之氏

 王子ホールディングス 代表取締役社長の磯野博之氏は「これまで当社ではパルプを用いて紙を製造してきた。しかしながら、近年は商業印刷の需要減少や電子書籍の普及などで紙のニーズが低くなってきており、事業ポートフォリオの転換が求められている。パルプから糖液やバイオエタノールを製造するパイロットプラントの完成は事業ポートフォリオ転換の第一歩だ」と強調した。

 同社は現在、持続可能なバイオマスを原料に、微生物の代謝反応を活用し、化学素材、燃料、食品、医薬品などを製造する新たな産業モデル「バイオものづくり」の事業化を推進している。敷地面積が19万haに及ぶ社有林「王子の森」をはじめとする森林資源や製紙工場のインフラを活用し、バイオものづくり技術によって木質由来の糖液、バイオエタノール、ポリ乳酸を製造して、脱炭素社会の実現にも貢献する。

 なお、原料の木材は再生可能であることに加え、バイオマスで先行するトウモロコシやサトウキビとは異なり、非可食であることから食糧と競合しない。

王子グループがバイオものづくりの事業イメージ
王子グループが目指すバイオものづくりの事業イメージ[クリックで拡大] 出所:王子ホールディングス

 バイオものづくりの事業化を推進するに当たり、今回のパイロットプラントを用いて事業性評価を2025年度に開始する。事業性評価では2025〜2030年度にパイロットプラントの性能や課題を検証するとともに、製造した木質由来の糖液やバイオエタノールの試験販売を行う。同時並行で本生産設備の計画と建設を進める。

 併せて、ベンチプラントで木質由来のポリ乳酸を年間0.5t生産して事業性を評価するとともに、同素材を年間1000t製造可能なパイロットプラントの計画/建設を推進する。2029年度にこのパイロットプラントを完成させ、同プラントで生産したポリ乳酸の試験販売を行う。

 2030年度には木質由来の糖液やバイオエタノールを本生産できる設備を完成させる。本生産設備では木質由来の糖液を年間20万t、バイオエタノールを年間10万kL生産する予定だ。同年度に国内製紙工場の一部をバイオものづくり工場へ転換することを検討中だ。

 2033年度には年間数万tのポリ乳酸を製造できる本生産設備の稼働を開始する。王子ホールディングス 代表取締役 副社長 執行役員 Chief Strategy Officer(CSO)の鎌田和彦氏は「これらのパイロットプラントや本生産設備で生産する木質由来の糖液やバイオエタノール、ポリ乳酸は、他社に販売するだけでなく、自社製品での活用も検討している。例えば、紙コップに防水性を持たせるために内側にラミネートしていた石油由来のプラスチックを、木質由来のポリ乳酸に変えることで、CO2排出量の削減に貢献する製品にできる」とコメントした。

 これらの取り組みにより、2030年代にバイオものづくり事業で年間300億円の売上高を達成することを目標に掲げている。磯野氏は「将来はバイオものづくり事業の売上高が当社の売上高のうち50%を占めるようになるとみている」と期待を寄せる。

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