音のズームレンズ? 聴覚拡張に挑戦するシャープ「SUGOMIMI」のスゴいところ:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(35)(2/3 ページ)
シャープは2025年2月、聴覚拡張機能を加えたワイヤレスイヤホン「SUGOMIMI」をリリースした。日常生活の聞こえに着目し、特定音を拡張して届ける新たな役割を提案するSUGOMIMIはどういう経緯で開発されたのだろうか。その舞台裏を小寺信良氏が伝える。
医療用からコンシューマーへ、開発ステップの違い
―― そして2025年2月に「SUGOMIMI」という姿で今度はコンシューマー商品として展開を開始したわけですが、あらためてコンシューマー機器としての展開する理由は何でしょうか。
磯部氏 補聴器のイメージみたいな話とも関わってくる部分ではあるのですが、メディカルリスニングプラグの相談会であったり、サービスセンターでのやりとりであったり、ご使用いただいてるお客さまへのインタビューを行ったりする中で印象的なエピソードがありました。
その方は、ワークショップなどの仕事をされている方だったのですが、ワークショップの参加者から「その耳につけてるのは何ですか」と聞かれて、「補聴器」と答えられなかったとおっしゃっていました。「聞こえを良くする最新機器」と答えたと聞きました。
こういうご意見が新たな製品開発のヒントになりました。われわれは補聴器をやっていますので、難聴の方をサポートするという役割については非常に大切に思っています。一方で補聴器というイメージの中に収まらないような「人をより良くするツール」「人の声に限らず周囲のさまざまな音を楽しめるツール」のような、新しい価値や習慣を作っていけるんじゃないかと考えました。それで商品化したのが、SUGOMIMIになります。
―― 利用者側の視点からすると、医療機器はお医者さんの指示で処方されるもので、普通には買えないものという認識ですが、メーカー側からすると、医療機器とコンシューマー機器の違いはどういうところにあるのでしょうか。
田邊氏 まず医療機器に関しては、国内で医療機器を製造したり販売したりする場合、「薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」や「QMS(Quality Management System)省令」に従って開発しないといけない点が明確な違いですね。販売した後も省令に従ったアフターサービスやサポートが求められます。そういうルールはコンシューマー機器よりもかなり厳しい部分があります。
では、実際に開発上で何が違うのかというと、参照してるISOの規格が違います。医療機器だと「ISO 13485」という医療機器用の品質マネジメントシステムに対応する必要がありますが、コンシューマー機器だと一般的な品質マネジメント規制である「ISO 9001」になります。いずれも品質マネジメントシステムですが、ISO 9001はフレームワークの意味合いが強くて、実際にどのように運営するかは、各企業に委ねられてる部分が多くあります。
一方、ISO 13485は、医療機器における規制をしっかり守る目的で要求事項がきっちり定められています。それを満たさないと医療機器として認証されないという厳格さがあります。
われわれは2021年にメディカルリスニングプラグの開発を始めた時に、初めてISO 13485を取得し、医療機器に関する規制を学びながら開発を行ってきました。しかし、われわれはISO 9001ベースで製品開発を行ってきた経験やノウハウがありますので、医療機器の手順を理解した上で、できるだけもともとやってきたISO 90001の開発ステップに近づけることを考えて、社内で昇華していきました。
そのため、現時点では、メディカルリスニングプラグのISO 13485ベースの開発ステップと、SUGOMIMIを含めたコンシューマー機器のISO 9001ベースでの開発ステップは、シャープの中で規定する開発ステップとして、ほぼ同じになるような形で整理が進んでいます。
―― 製品としては、メディカルリスニングプラグとSUGOMIMIというのは、大きく異なるものなのでしょうか。
田邊氏 大きな違いは、2つあります。
1つ目は、調整の方法です。メディカルリスニングプラグの方は補聴器ですので、音の調整は有資格者がフィッティングとして行う必要があります。一般的な補聴器は、有資格者が対面でフィッティングをするものですが、メディカルリスニングプラグに関しては、リモートで有資格者がフィッティングする仕組みを構築しています。われわれには通信の技術もありますし、スマートフォンのアプリケーションを開発する技術もありますので、そういう技術を集めて補聴器の調整をなんとかリモートでやりたいと考えました。メディカルリスニングプラグの開発で1番時間がかかったのが、そのリモートでフィッティングする仕組みのところです。
一方SUGOMIMIの方は、聴力チェックをして聞き取りにくい音を補正するという基本的な機能として同じようなものはありますが、コンシューマー機器なので、ユーザー自身がアプリを使って調整できる形にしています。
2つ目は、対象とする難聴者レベルがあります。メディカルリスニングプラグは、軽度と中度の難聴者をターゲットに開発し、そこをカバーできるだけの音圧が出るようになっています。最大115dBというかなり大きな音が出るんですが、それはフィッターさんがそのお客さまの聴力に合わせて調整することで、安全に使用できる仕組みとなっています。一方、SUGOMIMIは自身で調整できる分、最大音圧を抑える形でアプリケーションを開発しています。安全性を見るレベルが違うということですね。
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