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米中が先行する汎用ロボット、日本がロボット大国に返り咲くには何が必要なのか転換点を迎えるロボット市場を読み解く(6)(2/3 ページ)

転換点を迎えるロボット市場の現状と今後の見通し、ロボット活用拡大のカギについて取り上げる本連載。最終回となる第6回は、米国と中国が先行する汎用ロボットについて解説するとともに、日本がロボット大国に返り咲くために何が必要なのかを論じる。

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段階的な技術進化とそれにより切り開かれる世界

 ここまで述べてきた「汎用」には、幾つかの種類がある。究極的には人間と同じあるいはそれ以上にあらゆる作業が可能なロボットシステムも構想はできるが、少なくとも短期的にはそのような汎用性の実現は難しい。その上で大別すると、認識や計画などのいわゆる人間の大脳的な処理と、身体動作を担う小脳的な処理に分かれる。

 まず進むのは、大脳的な汎用AIソフトウェアと考えられる。認識で言えば、多種多様な対象物やその状況の認識、計画で言えばあるミッション(例えば部屋の片付け)を与えられたときに、どのようなタスクをどのような順番で実施することで完了すれば良いかを考えることに当たる。個別のタスク(例えば物を拾う)を実現する動作の生成や制御は、これまでの方式のままでありながら、生成AIなどの活用により能力を増大させることができるため、ロボット活用の裾野が拡大し得る。作業対象や作業環境、作業手順を標準化した上で、それらに対し作り込むことで構築してきたロボットシステムから、ばらつきのある対象、環境、手順であっても対応できるロボットシステムへと進化することで、ロボットシステムの導入や運用のコストを大幅に削減できる可能性がある。

 一方で、小脳的な汎用AIソフトウェアは、もう少し段階を経た進化となると考えられる。ロボットの手先や指先の位置と姿勢のみを制御するところまではある程度進み得るが、速度やトルクまでリアルタイムに制御するとなると困難性が増す。個別のハードウェア構成との切り離しが難しく、身体差を超えた適用は研究段階である。視覚、力覚、触覚などのマルチモーダルなセンシング結果とアクチュエーションの統合の課題もある。また、安全性についても考慮が必要である。

 このため、まずはいわゆる軽作業的な領域で、これまでロボットシステムの構築から運用までのトータルコストがなかなか見合わなかった分野から、汎用ロボットの世界が広がるのではないかと考えられる。

図2
図2 汎用ロボットの段階的進化[クリックで拡大] 出所:PwCコンサルティング

世界で進むデータ集め/仲間集め

 技術的には一足飛びとはいかず段階的に進むとしても、短期にも中長期にも、取り組みは米中の方が日本よりも先行していると言わざるを得ない。上述のように何でもできる汎用ロボットの実現は当面は困難だが、米中による足元の取り組みはインテンシブなトライアルにより技術の境界を見極めることにつながり、そこで短期的な出口も、中長期のイノベーションに向けた技術課題も見いだされるだろう。また、短期と中長期の双方に活用できるデータを大規模に集めることで、イノベーション推進力が高まる。さらに、世界中の研究者やその卵に自社のハードウェアやソフトウェア、データを使ってもらうことでエコシステムが構築されていく。

 既に、低コストでオープンソースのロボットの遠隔操作プラットフォームを組み、世界中からデータを集める取り組みがある。多数のロボットを連日動かし、データを収集するロボット訓練センターもある。ソーシャルメディアとしてこれまで蓄積してきた画像や動画のデータを学習データに生かす構想もある。

 今後加速する日本の取り組みにおいては、こうした世界の動きを捉えつつも、これまで培ってきた日本の強みを生かせるアーキテクチャやその中での押さえどころについて、見極めていくことが重要だろう。例えば、日本の現場力を生かせる模倣学習や、蓄積されたナレッジを活用した汎用モデルのチューニング手法、性能と安全の双方を担保できる動作制御などがあり得る。

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