正式発効する欧州保健データスペース「EHDS」で医療機器メーカーが果たす役割:海外医療技術トレンド(116)(2/4 ページ)
本連載第70回から欧州連合(EU)の欧州保健データスペース(EHDS)構想を取り上げてきたが、ようやく正式に発効することが決まった。
医療機器/デジタルヘルス企業の役割が明確になったEHDS
さらに2025年1月21日、EU理事会は、EHDSを正式に採択したことを発表した(図2参照、関連情報)。

図2 欧州保健データスペース(EHDS)・ファクトシート[クリックで拡大] 出所:European Commission「Factsheet - European Health Data Space」(2024年4月24日)
EHDSは、一般データ保護規則(GDPR、関連情報)、データガバナンス法(関連情報)、データ法(関連情報)、NIS2指令(関連情報)をベースとしたEU域内統一ルールであり、最終版文書が欧州連合官報に掲載されて20日後に発効する予定である。
なお、本連載第70回で取り上げた「欧州保健データスペースに向けた共同行動(TEHDAS)」(関連情報)は2023年7月31日に終了したが、後継プロジェクトとしてTEHDAS2(実施期間:2024年5月1日〜2026年12月31日、関連情報)がスタートしている。
EHDSやTEHDAS2の参画主体を見ると、当初は欧州医薬品庁(EMA)など医薬品寄りの傾向が見受けられたが、医療機器規則(MDR)や体外診断用医療機器規則(IVDR)などを経て、医療機器に関連した記述もEHDS規則案(関連情報、PDF)に反映されるようになった。
例えば、EHDS規則案の第27条(医療機器、体外診断用医療機器、AIシステムに関するEU法との関係)では、MDRで定義された医療機器またはIVDRで定義された体外診断用医療機器の製造者が、各々の機器と、電子健康記録(EHR)システムのハーモナイズされたソフトウェアコンポーネントとの間の相互運用性を主張する場合、欧州EHRシステム向け相互運用性ソフトウェアコンポーネントおよび欧州EHRシステム向けログソフトウェアコンポーネントに関する基本的要求事項への適合性を証明する必要があるとしている。
また、第49条(EHRシステムおよびウェルネスアプリケーションの登録のためのEUデータベース)では、欧州委員会が構築/運用する「EHRシステムおよびウェルネスアプリケーションの登録のためのEUデータベース」に転載される医療機器、体外診断用医療機器、高リスクのAIシステムについて言及している。
さらに第51条では、2次利用向け電子保健医療データの最小限のカテゴリーとして、以下の(a)〜(q)を挙げている。
- (a)EHRからの電子保健医療データ
- (b)保健医療の社会経済、環境、行動決定要因など、保健医療に影響を及ぼす要因に関するデータ
- (c)医療のニーズ、医療に割り当てられたリソース、医療の規定およびアクセス、医療の支出および調達に関する集約されたデータ
- (d)人間の保健健康に影響を及ぼす病原体に関するデータ
- (e)調剤、償還請求、償還など、医療に関連する業務データ
- (f)ヒトゲノム、エピゲノム、ゲノムのデータ
- (g)プロテオミクス、トランスクリプトミクス、メタボロミクス、リピドミクスおよびその他のオミクスデータなど、その他のヒト分子のデータ
- (h)医療機器によって自動生成される個人の電子保健医療データ
- (i)ウェルネスアプリケーションからのデータ
- (j)職業状況に関するデータ、および自然人の治療に関与する医療専門家の専門分野と所属機関に関するデータ
- (k)公衆衛生レジストリなどの人口ベースの健康データレジストリからのデータ
- (l)医療レジストリと死亡レジストリからのデータ
- (m)臨床試験規則((EU)No.536/2014:関連情報)、ヒト由来物質の品質および安全基準に関する規則((EU)2024/1938:関連情報)、医療機器規則 ((EU)2017/745:関連情報)、体外診断用医療機器規則((EU)2017/746:関連情報) の対象となる臨床試験、臨床研究、臨床調査、性能評価試験からのデータ
- (n)医療機器からのその他のデータ
- (o)医療製品および医療機器向けレジストリからのデータ
- (p)最初の関連結果公表後の保健医療に関連する研究コホート、質問票、調査からのデータ
- (q)バイオバンクおよび関連するデータベースからの保健医療データ
これらのカテゴリーから分かるように、EHDSの構築/運用上、医療機器/デジタルヘルス企業は、データユーザーとしての責務(第61条に規定)だけでなく、データホルダーとしての責務(第60条に規定)を果たすことが期待されている。EHDS関連プロジェクトに関わる医療機器/デジタルヘルス企業は、この点に留意してステークホルダーコミュニケーション活動を行う必要があろう。
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