検索
連載

東大と筑波大のスパコン「Miyabi」はAIで科学を変えていく――JCAHPCの4氏に聞くAIとの融合で進化するスパコンの現在地(4)(3/4 ページ)

急速に進化するAI技術との融合により変わりつつあるスーパーコンピュータの現在地を、大学などの公的機関を中心とした最先端のシステムから探る本連載。第4回は、「Miyabi」の構築を進めた、最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)の朴泰祐氏、中島研吾氏、塙敏博氏、建部修見氏へのインタビューをお送りする。

Share
Tweet
LINE
Hatena

スパコンリソースの提供を通じて日本の国力を高めたい

―― スパコンの利用状況について教えてください。それぞれの大学ではどのような研究用途にスパコンが活用されているのでしょうか。

筑波大学の建部修見氏
筑波大学 計算科学研究センター 教授 副センター長 博士(理学) (JCAHPC 運用支援部門 副部門長)の建部修見氏

中島氏 東大には大気海洋研究所と地震研究所がありますので地球科学系の利用が多く、その他には、材料、エネルギー、物理学が中心です。また、東大のスパコン「Wisteria/BDEC-01」のうち、360基のNVIDIA A100 Tensor コア GPUで構成した「Aquarius」上では、機械学習/AI(人工知能)、特に大規模言語モデル、医用画像処理などを目的とした利用が増えています。

建部氏 朴先生と私が所属する筑波大学計算科学研究センターは、創設当初から計算科学と計算機科学が一体となった体制をとっており、スパコン/高性能計算のほか、物理、生命、地球環境などの研究部門があり、各研究部門の教員と協調しながらコンピュータ資源を提供しています。その中ではとくに素粒子(QCD)研究が大口ユーザーです。

―― Miyabiはどういった利用を想定しているのですか。

中島氏 中心は計算科学、すなわちシミュレーションです。NVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipを活用することで、GPU向けのプログラミングが従来と比べて容易となり、CPU-GPU間のデータ移動などもより効率的に実施できると考えています。また、「Wisteria/BDEC-01」を使って「計算・データ・学習」の融合に取り組んできましたが、Miyabiは「計算」ばかりでなく、「データ」、「学習」などの処理とも相性がいいので、「計算・データ・学習」融合に取り組んでいるユーザーもMiyabiに誘導していこうと移行を支援しています。さらに生成AIを積極的に活用し、「AI for Science」(AIによる科学)を推進し、新しい科学の開拓に貢献していこうという考えは東大と筑波大で共有しています。

朴氏 スパコンはLLM(大規模言語モデル)の研究や開発にも使われますが、それはAIそのものをやっていることになります。われわれとしてはサイエンスに役立つAIをやっていきたいんですよ。例えば計算科学の問題を解くのに推論を活用したり、欠落しているデータをAIによって補ったりして、サイエンスにAIを活用していくのがAI for Scienceです。

―― Miyabiは民間利用(産業利用)も可能なのでしょうか。

朴氏 もちろんです。スパコンの利用によって日本の技術力が上がれば、引いては国力の強化にもつながります。そのプロモーションをやっているつもりです。なお、企業利用にどの程度の資源を提供するかはJCAHPCではなくてそれぞれの大学で決めています。利用の申し込みも各大学に対して行う必要があります。

中島氏 東大情報基盤センターは2008年から企業利用を実施しています。大規模計算のすそ野拡大と社会貢献の2つが目的です。東大情報基盤センターでは並列プログラミングの講習会を頻繁に開催していて、年間で20〜30回ぐらいやっているんですけど、それを受講したメーカーの方が企業利用に応募して、自社の製品開発に利用しているケースもあります。まずは東大のリソースで研究や開発にある程度目処をつけてもらって、その次に商用サービスや自社での導入に進んでもらいたい、というのがもともとの主旨です(第3回記事の図6)。まずは利用説明会※3)に参加していただければと思います。

※3)利用説明会は東京大学情報基盤センターで不定期に開催されている。

朴氏 筑波大に関しては民間企業が単独で利用するメニューは現時点ではなくて、基本的には本学との共同研究として利用してもらうことが前提です(第3回記事の図7)。ただし、できるだけ敷居を低くしようと、お試し利用制度なども設けていて、スパコンなんてうちには関係ないと考えている中小企業の皆さんにもぜひ使っていただきたいと思っています。とにかく種を蒔こうということですね。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る