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AUTOSAR導入で期待される「再利用」と「自動化」を本当に実現するための条件AUTOSARを使いこなす(34)(3/4 ページ)

車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載第34回は、AUTOSAR導入で期待される「再利用」と「自動化」を本当に実現するための条件について論じる。また、最新リリース「R24-11」の内容を簡単に紹介する。

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「自動化」ではデータ形式のインプット情報と後続プロセスに着目

 また、2つ目の自動化(automation)については、前回申し上げた「コードジェネレーターのしもべ」にとどまり続けたい、というわけではないのでしたら、まずは、機械的に処理可能(machine readable)なデータ形式のインプット情報と、後続プロセスに着目すべきでしょう。

 ARXMLはそのインプット情報の一形態ですが、それだけに限る必要はありません。

 また、後続プロセスでは、典型的には各種検証(特に、回帰検証:regression verification)での検証環境の自動設定やテストケース自動生成/設定などがありますが、そのほかにも、文書化(いまだ、ARXMLから生成できる「人間が読むための設計書」などを、別建てでWord/Excelなどで作成しているもったいないケースがありますが、さすがにこれは止めましょう)や変更の影響分析など、インプット情報に基づき機械的に処理できる部分は、いくらでもあるはずです。ただし、「既存の汎用ツールでできること」だけにしか目を向けなかったとしたら、できることは極端に限られるでしょう。それはそのはずです。後続プロセスは企業ごと/プロジェクトごとに大きく異なる部分も多いのですから、「汎化と特化」を適切に使い分ける必要があります。「QCD」のような結果指標だけに目を向け、それを得るまでの過程を他人任せにしてしまうのではなく、過程に目を向ける必要もあります(特に自己開示なしで/内情も明かさずに、「提案を」と求めるような姿勢では、何も得られないまたはカモにされる確率が高まるだけです)。

 そして、ARXMLを特定の場面で徹底的に活用しようとするのなら、AUTOSAR Methodology and Template(M&T)に対する本質的な理解や、「何がモデリングされているのか」を見抜く力も不可欠です※2)

 AUTOSARを「単なる機能ライブラリ群」としてしか捉えようとなさらない方も時折お見かけしますが、そのようなかたくなな姿勢では、AUTOSARの利活用はより困難になるでしょうし、それでは、自動化の恩恵を得やすい「前倒し(frontloading)」や、自動化の加速手段の一形態でもある「仮想化(virtualization)」のような効果を手にするのは難しいでしょう。

 ましてや、上記などの効果をさらに得やすくするような各種実現戦略の継続的改善(KAIZEN)や、「自分が欲しいものの、標準化コミュニティーの力を借りた開発/保守」のようなものには手が届くはずもありません。

※2)AUTOSAR Methodology and Template(M&T)に対する本質的な理解については、私の経験上、付け焼刃レベルでは無理だと断言できます。私が開発した研修プログラムには2日間という制約があるため、そのごく一部しか解説できないのですが、さまざまな前提知識や「考え方」も併せて身に着けるためには、もう数日のプログラムが必要でしょう(資料の用意は既にできていますが、公開は個別対応のみ)。

 また、正直なところ、プロセス志向の傾向(少なくとも、「人に、機械化可能な仕事をさせてしまっている」ことを見抜き、変えようとする力)や、決め急がない姿勢など、「ものごとへの向き合い方」に関するセンスも求められます。特に、ものごとを分類整理する上で観測を十分に行わずに決めたがる/決め急ぐ傾向がある方は、形にしたとしてもすぐに見直しが必要になってしまう傾向が強く、そこに中途半端な権威が加わることでこじれてしまうと、「失われたn年」となることも少なくありません(権威の影響が及ぶ範囲の限界を理解していれば、そのようなことは本来起きないはずなのですが)。

SDVが注目を浴びている今だからこそ

 Software-defined vehicle(SDV)というキーワードが注目を浴びている今だからこそ、「再利用」や「自動化」などから恩恵を得るという、基本的/基礎的なことについて、本気で取り組む必要があるのです。もしかしたら、こういった見直しの予算が確保できる最後の機会かもしれませんね(1990年代後半のアセンブラからC言語への移行、2000年頃のCANの導入と外部調達モジュールの利用拡大、そしてMBD(モデルベース設計)の普及、2005年から2010年頃のAUTOSAR、Automotive SPICE、ISO 26262対応ときて、近年のサイバーセキュリティ対応とSDVというバズワードによる機会を逃したら、次は何があるでしょうか?)。

 目の前のプロジェクトを片付け、そこでの近視眼的な収支だけ見て満足してしまい、気が付いたら世の中の進歩に置いて行かれてしまいます。

 そんなことを繰り返す余裕は、もうそんなに残されていないはずです。

 DevOpsやVirtualizationのようなキーワードを口にするだけして、結局のところは組織が分断されたまま連携しておらず個別プロジェクトと再利用/自動化がつながらないなんていう状況では、2024年5月発表の経産省と国交省による「モビリティDX戦略」での「SDVのグローバル販売台数における『日系シェア3割』の実現(2030年および2035年)」は絵空事になるでしょう。「まずは目の前のプロジェクトを片付ける」という近視眼的な考え方だけではなく、「中長期的な課題に対して経営層の目を向けさせ、計画に落とし込ませること(自分事として扱い、単に指示待ちになってしまわないこと)」が不可欠です。

 2025年もAUTOSAR日本事務局(Japan Hub)としての活動は続けてまいりますが、特に2025年は、これらについての啓蒙(けいもう)活動にも取り組んでいく予定です。

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