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社員研修だけで品質不正は防げない 組織の在り方そのものを見直すべき理由品質不正を防ぐ組織風土改革(1)(1/2 ページ)

繰り返される製造業の品質不正問題。解決の鍵は個人ではなく、組織の在り方、「組織風土」の見直しにあります。本連載では品質不正を防ぐために、組織風土を変革することの重要性と具体的な施策をお伝えしていきます。

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これで3カ月も連続で目標未達だ。上から何を言われるか分からない……。

もし納期がこれ以上遅れたら、うちの部署は大変なことになる……。

 ビジネスを推進する上では、目標を掲げ、その達成に向けて努力する必要があります。一方で企業が利益を追求するあまり、高い目標であっても達成を現場に強く求めることも少なくありません。

 目標達成に対する強いプレッシャーを受けて働いていると、従業員の中には「どんな手段を使ってでも目標を達成する」「どうにかして納期を絶対に守る」といった思考に陥いることがあります。こうした考え方が「当たり前」の文化として定着すると、品質不正の温床となり、場合によっては大規模な不祥事として露見する事態になりかねません。

⇒連載「品質不正を防ぐ組織風土改革」のバックナンバーはこちら

 筆者は長きにわたって、企業の組織変革に携わってきました。この経験から実感するのが、ほとんどの品質不正は、個人ではなく組織の問題として発生しているのだということです。

 品質不正を起こしたある企業の組織変革を担当した際に、約100人の従業員にヒアリングを行いました。皆さんすてきな方々で、顧客を思って仕事に取り組んでいることがひしひしと伝わってきました。一方で、「あのプロジェクトはうまくいかなかったので、組織のことを考えたら報告しないほうがいい」といった発言も聞こえてきたことが気になりました。

 「一人の人間」としては正しい考え方を持っていたとしても、「組織の一員」として不適切な判断や行動をしてしまうことがあります。このように、組織に属する人間を誤った方向へ導く原因の1つが「組織風土」です。

 組織風土とは、組織内で常識化している価値観や判断基準のことです。どれほどルールやマニュアルを整備し、研修を実施しても、不適切な組織風土が蔓延っていれば不正発生のリスクは高いままです。品質不正を起こさないためには、組織風土を根底から見直さなければいけません。

 本連載では、組織風土の観点から、品質不正を防ぐためにできることをお伝えしていきたいと思います。第1回と第2回は、品質不正の原因となる組織風土の問題点などを解説します。第3回以降は、組織風土変革の重要なファクターとなる「心理的安全性」と「理念浸透」を中心に、現場やコーポレート部門でできる施策についてお伝えする予定です。

次々と明らかになる品質不正問題

 近年、業界を問わず、数多くのコンプライアンス違反が起きています。帝国データバンクは毎年、倒産した企業のうち、取材によりコンプライアンス違反が判明した企業の倒産を「コンプライアンス違反倒産」として、その数を調査/公表しています。2023年のコンプライアンス違反倒産は342件となり、2022年から70件(前年比16.6%)増加し、2年連続で前年を上回りました。

帝国データバンク「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2023年)」
帝国データバンク「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2023年)」より引用[クリックして拡大] 出所:帝国データバンク

 業種別に見ると、製造業は7.6%(26件)と、他業種に比べて件数が特別に多いわけではありません。ただここ10年を振り返っても、三菱自動車やスズキ、神戸製鋼、日産自動車、日立化成、KYB、三菱電機、曙ブレーキ、日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機など、名だたる企業の品質不正問題が明るみに出て、さまざまなメディアで製造業への不信が報じられたことは、皆さんご記憶されているでしょう。

なぜ、品質不正はなくならないのか?

 品質不正を防ぐために「何もしていない」企業はないはずです。多くの企業が、ガバナンス体制の強化や、研修の実施、ガイドラインやマニュアルの整備など、さまざまな方法で対策を講じています。

 にもかかわらず、品質不正の発覚は後を絶ちません。企業の公式Webサイト上で「コンプライアンス経営」を掲げ、取り組みを開示している企業でも、品質不正や不適切行為が起きているのが実態です。

 どれだけ素晴らしい製品を世に送り出していても、品質不正が起きれば、これまで積み上げてきた信頼はまたたく間に失われてしまいます。何としても避けたい事態だといえますが、企業の品質不正は後を絶ちません。

 なぜ、品質不正はなくならないのでしょうか。ここではその理由を、人間と組織の特性についての見方、つまり「人間観」と「組織観」の双方から整理してみます。

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