東大と筑波大が共同構築した最新スパコン「Miyabi」がAI for Scienceを推進する:AIとの融合で進化するスパコンの現在地(3)(2/3 ページ)
急速に進化するAI技術との融合により変わりつつあるスーパーコンピュータの現在地を、大学などの公的機関を中心とした最先端のシステムから探る本連載。第3回は、東京大学と筑波大学が共同で構築した「Miyabi」を紹介する。
東大、筑波大ともにスパコンの企業利用が可能
東京大学と筑波大学はともに以前からスパコンを民間企業にも開放してきた。Miyabiについても同様で、それぞれの運用サービスの中で利用できる。
東京大学 情報基盤センター
大型の科学技術計算の裾野を広げることと社会貢献を目的に、2008年度以降、全資源の10%を上限として企業利用に割り当ててきた。
全体のフローは図6の通りで、利用を希望するユーザー向けにお試しアカウントのついた「講習会」が年に10回程度無償で開催されている。さらに利用したい場合は有償の「企業利用(トライアル)」に進む。その後の本格利用のパスとして、年2回募集の「企業利用(一般)」と、東京大学を含む「学術機関との共同研究」の2通りが用意されている。なお、前者は成果を報告する必要がある(最長で2年間の報告猶予が認められている)。
図6 東京大学 情報基盤センターのスパコンの利用フロー。講習会からスタートし、企業利用(トライアル)を経て、企業利用(一般)もしくは共同研究へと進んでいくのが通常の流れになる。[クリックで拡大] 提供:東京大学 情報基盤センター(同センターのWebサイトから転載)
2022〜2024年度の範囲では、セイコーフューチャークリエーション、日本工営、JSOL、信越化学工業、住友金属鉱山が、「企業利用(一般)」によって研究開発を進めたことが公表されている。
企業との「共同研究」も盛んであり、例えば大成建設を交えた二酸化炭素地下貯留シミュレーション、日本自動車工業会を交えた自動車の衝突解析、富士通を交えた心臓シミュレーションなど、さまざまな取り組みが行われている。
その他、同センターは、スパコン利用のハードルを下げることを目的に、「お試しスパコン利用(無料体験)」というサービスも提供している(Miyabiについては正式稼働移行後に提供予定)。使える計算資源量は限られているが、最新のNVIDIA GH200 Grace Hopper Superchipを無料で利用できるのは大きい。
筑波大学 計算科学研究センター
筑波大学のスパコンも企業利用が可能だ。Miyabiの場合で計算資源のおおむね7%が一般利用として有償提供される。ただし、民間企業が単独で利用する制度は現状ではなく、大学(筑波大学以外も可)や公的研究機関と共同研究する場合に限られる。
ハードルがやや低い「スパコンお試し利用」制度もある(図7)。同センターに在籍している教員の中から自社のテーマに関連する分野の教員にマッチングを申し込んでから利用する。共同利用の形をとっているのは、企業と同センターとの関係を構築し、将来的には本格的な共同研究に発展させていきたいといった理由からである。このお試し利用は無償である。
図7 筑波大学 計算科学研究センターが提供する「スパコンお試し利用」の流れ。対象とするテーマに最も近い教員とマッチングを経て利用が可能になる。[クリックで拡大] 提供:筑波大学 計算科学研究センター(同センター提供資料から転載)
また、同センターでは、民間企業を絡めた「AI時代における計算科学の社会実装を実現する学際ハブ拠点形成」という取り組みを進めている。産学で連携を図りながら、材料、生命科学、気象などの分野を中心に計算科学利用を促進することが目的であり、文部科学省の事業に採択された。初期メンバーとして、トヨタ自動車、ウェザーニューズ ナウキャストセンター、アヘッド・バイオコンピューティング、エヌビディア エンタープライズ事業本部が名を連ねていて、将来的には参画企業を増やしていきたい考えだ。「スパコンお試し利用」もこの一環で、エントリーレベルの企業を増やしていくための試みである。
GPUに向けたソフトウェアの移植を支援
いずれの大学で利用する場合も、ライセンス的に問題のない一部のツールやライブラリを除き、計算用ソフトウェアは企業側が自前で用意する必要がある。とくにMiyabi(Miyabi-G)で動かす場合は、メニーコアのCPU向けに記述されたソフトウェアの移植やチューニングが必要である。
東京大学 情報基盤センターは、およそ2年間をかけて、メニーコアCPU向けに記述された研究用ソフトウェアのGPUへの移植を支援してきた(図8)。ソフトウェアの移行や検証にはそのぐらいの時間がかかるとの判断だ。ハッカソン(ミニキャンプ)の実施、各種講習会やリモートベースでの相談会の開催、移行ポータルサイトの開設、基本となるソフトウェア(コミュニティーコード)の移植などを、NVIDIAにも協力を要請しながら実施した。
このうちコミュニティーコードとしては、エンジニアリング、生物物理学、物理学、気候/気象/海洋、地震の5分野で19本が移植されている。
一方、筑波大学 計算科学研究センターでは、従来から「Cygnus」および「Pegasus」という同センター独自のGPUスパコンを運用しており、いずれもNVIDIA V100およびH100 GPUを採用していることから、これらのユーザーについてはMiyabi-Gへのソフトウェア移植もスムーズに進むと期待される。
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