数理モデルとの誤差を補正するバイオプロセスの制御システムを開発:研究開発の最前線
奈良先端科学技術大学院大学は、細胞内の代謝物センサー分子により数理モデルとの誤差を補正する、バイオプロセスの制御システムを開発した。遺伝子回路を組み込んだ大腸菌を使い、システムの有効性を実証した。
奈良先端科学技術大学院大学は2024年11月19日、細胞内の代謝物センサー分子により数理モデルとの誤差を補正する、バイオプロセスの制御システムを開発したと発表した。藤田医科大学、セントルイスワシントン大学との共同研究による成果だ。
今回開発した制御システムは、細胞内の代謝物を感知するセンサー分子を組み込み、数理モデルに基づく最適化と人工遺伝子回路によるフィードバック制御を併用したものだ。
研究グループは、脂肪酸合成の中間体であるマロニルCoAに反応するセンサーと、触媒する酵素(アセチルCoAカルボキシラーゼ:ACC)を制御するスイッチの2つの遺伝子回路を組み込んだ大腸菌を使い、同システムの有効性を検証した。
生産物(脂肪酸)の収量を最大化するため、コンピュータが数理モデルを使って最適な誘導剤入力を計画。大腸菌は、モデル誤差による入力の狂いを細胞内の代謝物センサー分子を使ったフィードバック制御により補正する。
その結果、細胞内のセンサー分子によりACCの発現をリアルタイムで適切に調節できることが確認された。また、意図的にモデル誤差を加えたシミュレーションでも脂肪酸生産量の減少を抑えられた。
同システムはACCに限らず、他の酵素の発現制御にも応用可能だ。人工のセンサーや生化学分析が不要で、継続的な細胞内のモニタリングが困難なケースにも活用できる。
細菌や酵母などの生きた細胞を利用して、医薬品、食品、化学材料などの有用な物質を生産するバイオプロセス技術では、目的生産物の生成を触媒する酵素の発現増強が必要となる。酵素の触媒作用と細胞への負担の最適化を図るため、誘導剤の濃度などは微生物の数理モデルを用いて設計している。しかし、モデルの予測と実際の微生物のふるまいに誤差が生じた場合、生産物の収量が減少することが課題だった。
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