リチウムイオン電池の性能を左右する「電極」に求められる4つの特性:今こそ知りたい電池のあれこれ(27)(3/3 ページ)
注目を集めるリチウムイオン電池をはじめ「電池のあれこれ」について解説する本連載。今回から、リチウムイオン電池の「電極」について深掘りしていきます。まずは、リチウムイオン電池の製造工程を確認しつつ、電極に求められる4つの特性を紹介します。
なぜリチウムイオン電池の電極について深掘りしてこなかったのか
ここまでリチウムイオン電池の電極について、基本的な構造や代表的な材料、一般的な製造工程や求められる電極特性の「概要」を解説してきました。
今回、冒頭で、リチウムイオン電池の電極は、とても重要な要素でありながら、これまで「とある理由」であまり深掘りしてこなかったと述べました。
例えば、電極の製造工程を今一度振り返ってみます。
各材料を溶剤中で混合、分散し、合材塗料となるスラリーを作製し、そのスラリーを塗布した金属箔を乾燥させることで電極合材を形成。その後、プレスやスリットといった加工をしていくという流れが一般的な製造工程となります。
このとき、スラリーをどのような手法で混合するかは、電極合材中の各材料の分散性に直結しますし、用いる材料種や混合比によっても、混合時間や回転数、そもそもどのようなミキサーを用いるべきかなど、最適な混合手法が変わってきます。
出来上がったスラリーに対しても、塗工する速度や乾燥炉の温度設定によって、電極合材の仕上がりが変わってきます。
そしてどれだけの面積や厚みで塗工するのかは、まさしく電池の性能を決定するパラメーターですし、乾燥後の電極をどのようにプレスするかによっても、また電池性能が変わってきます。
このように、電極の製造工程を振り返って考えてみても、非常に多種多様なパラメーターが絡み合い、どこか一つの値が変わっただけでも、最終的な電池性能に影響を与え得るものであることが分かり、ひとたび詳細を解説しようとすれば、考慮すべき要素が次から次と湧いて出て、とりとめのない話になりがちです。
そのため、これまでの連載記事の中でも、リチウムイオン電池の電極そのものについてはあまり深掘りせずに各要素に触れるだけに留め、普段セミナーなどでお話しさせていただくときも詳細は割愛させていただくことがほとんどでした。
これが、これまでリチウムイオン電池の電極について深掘りをしてこなかった理由です。
次回から「電極」を深掘りして解説
以上のような状況を踏まえつつ、次回以降、今回ご紹介したリチウムイオン電池の電極に求められる4つの特性(高エネルギー密度、低抵抗、機械的強度、化学的安定性)の観点に沿って整理することで、あまりとりとめのない話にならないように注意しながら、あらためて代表的な構成材料(活物質、導電助剤、バインダー、集電体)や一般的な製造工程(スラリー作製、塗工、プレス、スリット)を振り返り、求められる電極特性の実現のために、材料や製造工程における各要素、パラメーターがどのように寄与していくのかといった点を、順に深掘りしながら解説していきたいと思います。(次回に続く)
著者プロフィール
川邉 裕(かわべ ゆう)
株式会社カーリット 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼株式会社カーリット
https://www.carlithd.co.jp/
▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/
▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html
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