加速する業界横断のデータ流通 製造業は何を指針に自社の対応を決めるべきか:真に「データ中心の製造DX」を実現するには(4)(1/2 ページ)
製造業でも経営や業務のデータドリブンシフトの重要性が叫ばれるようになって久しい。だが変革の推進は容易ではない。本稿では独自の「概念データモデル」をベースに、「データを中心に据えた改革」に必要な要素を検討していく。
Green Transformation(GX)やSustainable Transformation(SX)への社会的要請が高まる中、企業にはサプライチェーン全体での情報管理がより一層強く求められている。顧客ニーズの多様化により、今後は一社単独で顧客が満足する製品やサービスを提供することが難しくなると想定される。企業間の買収や合併、合弁の他、事業連携や協業がますます進むだろう。
これらを背景に、企業や業界を跨いだデータ流通が不可欠となり、そのためのルール整備やインフラ構築が進みつつある。本連載の第3回までは、自社内での概念データモデルの必要性や活用方法、作成ステップについて述べてきた。最終回では、国際的なデータ流通(データエコシステム)と概念データモデルの関係について述べる。
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グローバルにおけるデータエコシステムの動向
近年、企業内のデータ活用にとどまらず、官民や国境を越えたデータ流通が各国で活発化している。データの流通は、社会全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を促進して経済成長を支える。同時に、CO2排出量の管理やトレーサビリティーなどの環境対応に欠かせないものとして、現在さまざまな国や地域で、持続可能性の高いプラットフォーム構築が推し進められている。以下では、代表的なデータエコシステムの取り組みを紹介する。
GAIA-X
EUおよびドイツ、フランス政府が主導し、データ主権の確立を目指す取り組みだ。300以上の企業/組織が参加する分散型データエコシステムで、クラウドおよびデータサービスの標準化を推進している。GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)に準拠し、製造や金融、スマートシティ分野での安全なデータ連携を支援し、経済競争力の強化とDXの促進を図っている。
Catena-X
ドイツ政府と主要自動車メーカー(BMW、Boschなど)が主導し、サプライチェーン全体のデータ連携と透明性向上を目指す取り組みだ。分散型データエコシステムを通じ、サプライヤーやOEMが安全にデータを共有できる環境を提供する。GAIA-X基準に準拠し、相互運用性を確保しながら、CO2削減や製品トレーサビリティの向上を促進し、持続可能で競争力のあるサプライチェーンを構築する。
Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)
日本の経済産業省が主導し、国内外での分散型データ連携基盤の構築を目指す取り組みだ。自動車および蓄電池業界のトレーサビリティ強化に重点を置き、製造からリサイクルまで各プロセスを追跡可能にする。官民連携でサプライチェーンの透明性を高め、持続可能なビジネスの拡大と社会課題解決への貢献を目指している。将来的には他産業やスマートシティにも展開し、GAIA-Xなどの国際基準とも連携してDXを推進する予定だ。
国際的なデータ流通に必要な要件
これらの取り組みは、データの相互連携を前提に進められており、国際的なデータ流通のトレンドを加速させている。では、企業はこのトレンドにどう対応すべきか、国際的なデータ流通に必要な主要な要件ごとに解説する。
A.データ流通の国際ルール
産業データの国際流通には、政府や国際的な業界団体が主導するルールや標準の策定、管理が不可欠になる。企業は、自社のビジネスに適したデータモデル標準を業界団体に積極的に提案し、その策定プロセスに関与することが重要になる。
B.データの国際流通基盤
国際的なデータ流通を支える情報基盤の構築は、プラットフォーマーや大手SIerが主導する。企業は利用者として、業界団体やプラットフォーマーに対し、データの頻度、形式などの具体的な要件を明確に伝える必要がある。
C.データ流通を促すビジネスモデル
この要件については、流通するデータを生み出し、活用する企業が主体的に検討する必要がある。企業は、国際データ流通基盤を活用した自社のビジネスモデルや、運用制度の構築が求められる。脱炭素や資源循環といった社会的要請への対応と、自社ビジネスの発展の両立が重要になる。
ここまで、データエコシステムの世界的な動向と企業に求められる役割を解説した。データエコシステムを構築、参加するために、製造業は自社のビジネスにおけるメリット/デメリットを明確にし(上記C)、そこを起点にして国際的なデータ標準作り、流通基盤構築(上記AとB)に積極的に関わっていくことが重要である。積極的にデータエコシステムの構築に関わるからこそ、自社のメリットを最大化できる。
このような関わり方をする上で「概念データモデル」がどのような役割を担うかを次章で述べたい。
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