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イチから全部作ってみよう(13)異常系への対策は「諦める」ことも肝要山浦恒央の“くみこみ”な話(182)(3/3 ページ)

ECサイトを題材にソフトウェア開発の全工程を学ぶ新シリーズ「イチから全部作ってみよう」がスタート。シリーズ第13回は、たこ焼き屋模擬店の要求仕様書から洗い出した異常系にどのような対策を行うべきかを考察する。

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6.筆者の作成例

 全ての対応策を考えようとすると、膨大になるので、運営/販売のみを考慮します。筆者の作成例を下記に示します。

6.1 運営の対応案

 運営の異常系を図2に示します。

図2
図2 運営の異常系(運営のみを切り取ったもの)[クリックで拡大]

 表2に対応案を示します。

小項目 重要度 対策費用(コスト) 発生確率 対応
役割分担不足 0円
(0円)
0.1 1.緊急度が高い場合は、実行委員長、副委員長に電話で確認する
2.緊急度が低い場合は、そのまま作業を進める。ただし、委員会の人と話せる場合は、変更点を伝えて調整をする
3.重要な事項の場合は、書面に残して再度共有する
連絡ミス 0円
(0円)
0.1
スケジュール変更 0円
(0円)
0.05
場所なし 1000円
(2万円)
0.05 1.そもそもの場所がない場合は、すぐに確保できるか確認する
2.場所のスペースが足りない場合は、スペースを拡大できないか確認する
3.上記2つが達成できない場合は、別の部と併設できないか確認する
4.上記が達成できない場合は、出店を停止する
機材/食材/備品なし 2500円
(5万円)
0.05 1.予算が余っていれば下記を検討する
2.機材/備品がない場合は、スーパー、ホームセンター、部員の持ち物、別の模擬店から調達する
3.たこ焼きが提供できる食材がない場合は、下記の提供品にできないか検討する
3.1 お好み焼き
3.2 ベビーカステラ
4.上記から出店が困難と判断した場合は、出店を取りやめる
搬入/設営事故 1000円
(10万円)
0.01 1.物的事故の場合は、下記を検討する
1.1 校内の備品の場合は、担当の先生に確認し、謝罪する
2.レンタル品の場合は、金銭で対応する
3.人的事故の場合で、下記の対応をする
3.1 大けが、中程度のけがの場合は、保健室に行き、先生の判断を仰ぐこと。大けがで保健室が開いてない場合は、救急車を呼ぶ
3.2 軽微なけがの場合は、手当をする
4.事故発生時は、残った人は、再発防止策を検討する
5.安全性が確保できないと判断した場合は、出店を停止する
機材予約ミス 250円(5000円) 0.05 1.業者と再度予約を調整し、機材を手配する
2.再調整がつかず、出店困難な予約ミスであれば、出店を停止する
食材が余る 0円
(0円)
0.75 1.封が閉じてあり、衛生が確保できているもので、部員の希望があるものは、持ち帰らせる
2.それ以外は、全て捨てる
ごみが捨てられない 25円
(500円)
0.05 1.委員会と確認し、ごみが捨てられるか再度確認する
2.捨てられなければ、ビニール袋を購入して、小分けにして部員に持ち帰ってもらう
清掃不足 0円
(0円)
0.5 1.部長が最終チェックを行い、不足があれば、再度清掃をする
欠員 0円
(0円)
0.1 1.最低2人確保できない場合は、下記を検討する
1.1 別の時間帯の部員と配置転換できるか確認する
1.2 確保できない場合は、別の部から部員を借りられるか交渉する
2.上記で確保できない場合は、出店を諦める
モチベーションの低下 0円
(0円)
0.2 1.もともとみんなやる気がないため、下記の対策は行わない
1.1 モチベーションが低い部員がいる場合は、部長が丁重にお願いをする
1.2 それでもダメな場合は、部員のモチベーションは考えない
スケジュール誤認 0円
(0円)
0.2 1.緊急事態の場合は、電話でスケジュールを訂正する
2.緊急事態でない場合は、訂正メールを送付する
表2 運営の異常系への対策案

6.2 販売の対応案

 販売の異常系を図3に示します。

図3
図3 販売の異常系(販売のみを切り取ったもの)[クリックで拡大]

 表3に対応案を示します。

小項目 重要度 対策経費(コスト) 発生確率 対応
釣銭切れ 0円
(0円)
0.3 1.釣銭切れでピッタリ払うように伝える
2.ピッタリ払えない場合は、部員のお金で建て替えて両替をする。部員のお金がない場合は、購入できないと伝える。
窃盗 10円(1000円) 0.01 1.下記を検討したが、そんな部員はいないと考え、対処しない
1.1 部員が模擬店予算を窃盗した場合は、下記を検討する
1.2 委員会に窃盗があったことを報告する。また、先生にも伝え、判断をゆだねる
1.3 残りの予算で出店継続が困難な場合は、出店を停止する
行列対応 0円
(0円)
0.5 1.行列となった場合は下記を検討する
1.1 他の模擬店に影響を与える場合は、後で来てもらえるように伝える
 1.2 影響を与えない場合は、きれいに整列するように促す
食い逃げ 5円
(500円)
0.01 1.食い逃げが発生しても、大きな金額的な損害とならないことから対処しない
1.1 お客が食い逃げをした場合は、実行委員会と先生に伝え、判断をゆだねる
 1.2 警備員に確認し、どのような人か調査する
お金がない 0円
(0円)
0.01 1.たこ焼きの購入客に手持ちのお金がない場合は、下記を検討する
1.1 商品を渡さない
表3 販売の異常系への対策案

7.おわりに

 今回は、たこ焼き模擬店の異常系をより深く考えました。要求仕様書のイメージが把握できたでしょうか。コンピュータは、あらかじめ指示をしておかないと、異常時にどのように動作するか予想できません。よって、考えうる異常系を考察する必要がありますが、細かいところまで考えるとキリがありません。よって、影響度、対策費用、発生確率をしっかり考え、「対策する」だけでなく「諦める」ことも視野に入れて対応策を考えましょう。

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【 筆者紹介 】
山浦 恒央(やまうら つねお)

東海大学 大学院 組込み技術研究科 非常勤講師(工学博士)


1977年、日立ソフトウェアエンジニアリングに入社、2006年より、東海大学情報理工学部ソフトウェア開発工学科助教授、2007年より、同大学大学院組込み技術研究科准教授、2016年より非常勤講師。

主な著書・訳書は、「Advances in Computers」 (Academic Press社、共著)、「ピープルウエア 第2版」「ソフトウェアテスト技法」「実践的プログラムテスト入門」「デスマーチ 第2版」「ソフトウエア開発プロフェッショナル」(以上、日経BP社、共訳)、「ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ」「初めて学ぶソフトウエアメトリクス」(以上、日経BP社、翻訳)。


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