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宇宙分野の市場は4000億ドル超、“下流”ほど規模大きく宇宙開発(1/2 ページ)

PwCコンサルティングは宇宙分野のトレンドや課題を包括的にまとめたレポート「宇宙分野の主要トレンドと課題 第4版(日本語版)」を発表した。

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 PwCコンサルティングは2024年10月4日、宇宙分野のトレンドや課題を包括的にまとめたレポート「宇宙分野の主要トレンドと課題 第4版(日本語版)」を発表した。2023年時点の宇宙分野の市場規模は、バリューチェーン全体で4030億米ドルに上ると試算する。また、投資に対して、事業領域にもよるが4〜8倍の経済波及効果が期待される。

 ただ、持続可能性の確保や地政学的な情勢の変化など課題は複雑だとしている。多面的/多層的に物事を捉える視点や考え方が今後より重要になるという。レポートは宇宙分野のバリューチェーンの他、国際的な情勢などのマクロトレンド、領域別のトレンド、政策や規制などに言及している。

宇宙分野の市場規模は

 4030億米ドルと試算される足元の宇宙分野の市場規模は、上流/中流/下流など分野ごとの推計と研究予算を合算したものだ。打ち上げサービスや衛星の製造などの「上流」は260億米ドル、地上のインフラとその運用、フリート運用など「中流」は410億米ドルとなる。消費者向けの機器や宇宙を活用したサービスである「下流」は2430億米ドルで最も市場規模が大きい。また、宇宙探査や安全保障など研究機関の予算は930億米ドルに上る。

 宇宙分野のバリューチェーンは、セグメント別もしくは領域別に見ることができる。この数年間、宇宙産業のバリューチェーンは、衛星やロケット、地上システムの製造/組み立て/統合/試験などの上流から、衛星通信など宇宙システムや宇宙インフラを利用する下流にけん引役が変化してきた。

 上流で生み出されたサービスを下流の市場で使うのではなく、GNSSや衛星放送など新しいサービスに対するニーズが宇宙産業の発展を支える格好だ。また、伝統的な宇宙企業が下流のサービス提供を行い、非宇宙企業が宇宙関連技術の開発を行うなど、上流と下流の活動の協会があいまいになりつつあるという。

宇宙分野のバリューチェーン(上流)
上流(開発、製造、実証)
宇宙へのアクセス 無人宇宙船 宇宙港インフラ
有人宇宙船
地球観測 衛星プラットフォーム リモートセンシングペイロード 地上セグメント
衛星通信 衛星通信ペイロード
衛星ナビゲーション 衛星測位・航法・タイミング
ペイロード
宇宙の安全保障 宇宙状況把握ペイロード 地上セグメントと地上望遠鏡
地球外経済 宇宙探査ペイロードと探査機 深宇宙地上セグメント
ネットワーク
ミッション固有のペイロード
軌道上製造・サービス 地上セグメント
軌道ステーション HSFミッション管制センター

宇宙分野のバリューチェーン(中流、下流)
中流(運用) 下流(サービス)
宇宙へのアクセス 宇宙港の運用 - 打ち上げ 打ち上げサービス仲介事業者 同左
宇宙飛行士の訓練
地球観測 衛星プラットフォームの運用とテレメトリー ペイロードの運用とテレメトリー データの収集、保管、管理 リモートセンシングによる付加価値サービス 統合アプリケーションとデータ融合
衛星通信 衛星通信サービス
衛星ナビゲーション 位置情報サービス
宇宙の安全保障 宇宙交通管理サービス
地球外経済 衛星プラットフォームの運用とテレメトリー ペイロードの運用とテレメトリー データの収集、保管、管理 宇宙資源の収集・取引
軌道上運用・ロジスティクス 宇宙飛行士の訓練、モニタリング 軌道上サービス

 PwCコンサルティングが宇宙分野への投資効果を推計したところ、直接的/間接的/誘発的な経済活動を含めて支出が粗付加価値全体に与える影響は、投資額の1.4〜2.2倍に上るとしている。直接的効果は宇宙産業に関連する粗付加価値、間接的効果は宇宙産業のサプライチェーンでの支出に関連する粗付加価値、誘発的効果は宇宙分野で働く人が個人の収入を元に購入した商品やサービスなどに関連する粗付加価値を指す。雇用や税収といった経済効果も生む。

 また、宇宙分野への投資の結果、使われた技術や専門知識が他の産業での売り上げや資金調達につながったり、新たなパートナーシップの創出や顧客開拓に貢献したりする効果や、宇宙分野の組織開発手法を継承していくことで組織の生産性向上につなげることも期待できるとしている。

 衛星データやロケットなど宇宙アセットを活用することで生じる売上高は、宇宙アセットの初期支出に対して4〜8倍にもなるという。宇宙産業への投資は宇宙分野だけにとどまらない大きな経済効果を生み出すとしている。現状では宇宙アセットの数がまだ少ない。上流でアセットが増えていくことで、下流の市場が大きく伸びていくと見ている。

宇宙分野を支える投資

 宇宙開発の投資は公的資金に支えられており、投資対効果などの意義がより重視される。宇宙分野に投資するメリットを明確化することは、投資を確保する上でも重要だ。また、宇宙分野は事業化まで長期間を要するため、参入したい民間企業も投資対効果の検証が重要だ。4〜5年、10年という長い時間軸で取り組まなければならないため、宇宙分野のみに取り組むのではなく、宇宙分野のために開発した技術をいかに既存事業に生かすかがカギを握る。中長期的な目線だけでなく、既存の事業でシナジー効果を創出できるかどうかを見ていくことが求められる。

 資金調達に関しては苦しい状況だ。宇宙分野を含め、スタートアップへの投資は2020〜2021年ごろをピークに減少している。コロナ禍や金利、紛争リスクなどが背景にあり、投資先を厳しく選定する傾向が強い。ただ、PwCコンサルティング シニアマネージャーの榎本陽介氏は「投資の減少傾向は必ずしも続かないのではないか。官からの投資が一定で続くか拡大する可能性がある。有効な技術を持った企業が投資を集めやすくなり、投資を受けてビジネスを拡大していく良いサイクルが回っていくのではないか」と見ている。

 宇宙分野のスタートアップではSPAC(特別買収目的会社)の制度が資金調達の手段として活用されてきた。売上高が増加し、政府との契約や民間投資を獲得した企業がある一方で、株式の非公開化を検討する企業や、買収後に時価総額が大幅に下落してレイオフや株式併合に至るケースもある。業績などさまざまな情報を公開しなければならないため、開発上必要な“失敗”であっても評価に響くためSPAC企業の経営は難しい。

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