ロボット新戦略から約10年、ロボット市場のこれまでとこれから:転換点を迎えるロボット市場を読み解く(1)(2/3 ページ)
2015年2月に日本経済再生本部から「ロボット新戦略」が打ち出されて約10年が経過した現在、ロボット市場の状況は、日本のロボット産業の状況はどうか。本連載では、転換点を迎えるロボット市場の現状と今後の見通し、ロボット活用拡大のカギについて取り上げる。第1回は、ロボット市場のこれまでとこれからを俯瞰的に解説する。
ロボットでなければ解決し難い社会課題がある
このようにロボット活用拡大に向けた取り組みが活発化する背景には、少子高齢化に伴う労働力不足があらゆる産業で深刻化してきていることがある。直近では2024年問題といわれるように、物流、建設、医療などの現場での人手不足が顕著である。また、単に労働力が不足しているというだけでなく、モノづくりや建設などの現場において高度な技能を有する人材が不足し、品質の高い業務の継続が困難になる懸念も高まってきている。
こうした中で、人一人の力を最大限に生かすために、自動化できるところはロボットに任せ、人は人にしかできないことに集中することがますます重要となってきている。あるいは、完全自動化までは至らずとも、ロボットにより作業を遠隔化したり、軽労化や省スキル化したり、ロボットを同僚もしくは相棒と見立てて一人の技能者ができる業務を最大化したりなど、人間拡張的な取り組みの有効性も増している。
こうしたロボット活用が期待される業務の特徴は物理的な作業を多分に含むことであり、いかに昨今のAIをはじめとするデジタル技術が進展しようとも、デジタルのみに閉じたソリューションでは実現できない領域である。もし今後もデジタル技術のみが発展した場合、思考や判断はテクノロジーが担い、実作業はその指示に従って人が担うという社会もあり得るが、ロボット技術も併せて発展すれば、より人が人らしく仕事や生活を営めるような社会を実現できるはずである。
このような社会課題も背景に、ロボット市場は今後もあらゆる領域で成長が期待されており、図2に見られるように2030年までのロボット市場全体の年平均成長率(CAGR)が17.1%に達するという試算もある。この試算で特に高い成長が期待されているのは、まさに2024年問題に直面している土木建築や屋外搬送(宅配など)といった、現状では人にしか担えない業務が多く残るサービス業や介護、高齢化による人手不足が特に進む農業などであり、ロボット市場は社会課題が主たるドライバーとなって成長する市場であるといえる。
このような期待感もあり、国内外で実に多様なロボット開発やロボット活用の取り組みが進められている。一方で、それら取り組みの成熟度はさまざまであり、想定される時間軸の見極めが重要である。
例えば、多種多様なサービスロボットが考案されているものの、現時点で活用が進んでいるのは配膳ロボットや清掃ロボットを筆頭とする道具としての色合いの濃いロボットが、ロボットフレンドリーな環境で動作する場合がほとんどであり、人の相棒のように臨機応変に業務を担うようなロボットはまだまだ先の話である。サービスロボットの有効活用には、技術成熟度を見極めつつ、業務や環境と合わせたユースケース設計が肝要である。
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