東芝が小型高精度のMEMS慣性センサーモジュール開発、可搬型ジャイロコンパスも:組み込み開発ニュース(1/3 ページ)
東芝は、小型化と世界最高レベルの精度を両立した慣性センサーモジュールを開発した。太平洋航路をGPSなしで飛行できるナビゲーショングレードを容積約200ccで実現。同モジュールのジャイロセンサーを用いて持ち運び可能なジャイロコンパスも開発した。
東芝は2024年9月2日、小型化と世界最高レベルの精度を両立した慣性センサーモジュールの開発に成功したと発表した。角速度や加速度の計測に変位を用いないMEMS(微小電子機械システム)式のジャイロセンサーと加速度センサーを新たに開発することで、太平洋航路をGPSなしで飛行できるナビゲーショングレードに対応する場合に、従来は数十cm角サイズになる機械式や光学式が必要だった慣性センサーモジュールの容積を約200ccまで小型化した。今後は、開発支援を受ける防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度の下で、2025年度までにペットボトルキャップと同程度となる10cc級の超小型サイズの実現に向けた開発を進める方針だ。
併せて、東芝グループの防衛事業の中核会社である東芝電波プロダクツが、同モジュールのジャイロセンサーを用いて持ち運び可能なジャイロコンパスを開発したことも明らかにした。方位角精度は0.056度以下と機械式や光学式のジャイロセンサーを用いる場合と同レベルを確保しつつ、容積で約4リットル、重さで約4kgなど5分の1〜10分の1の小型軽量化を実現している。防衛分野におけるレーダー設置、土木工事の測量や地中掘削の方角推定などの用途に向けて2026年度以降に製品化する方針である。
一般的なMEMS慣性センサーはダイナミックレンジと精度を両立できない
慣性センサーは、物体の動きや姿勢を検出するためのセンサーで、物体の回転や向きの変化を検出するジャイロセンサーや、物体の速度の変化を検出する加速度センサーなどがある。これらの慣性センサーを用いることで、GPSなどの電波が届かないビル陰や水中、暗くてカメラで対応できないトンネルや屋内暗所などでの自己位置推定が可能になる。実際に、航空機や船舶に光学式や機械式を用いた高精度の慣性センサーが搭載されており、自動車のカーナビゲーションシステムにもMEMS式の慣性センサーが活用されている。
近年は、モビリティの自動化が進展しており、移動ロボットやドローンの自己位置推定のために慣性センサーの搭載が求められるようになっている。ただし、それらに搭載可能なMEMS式などの小型の慣性センサーは精度が十分ではないことが課題になっている。スマートフォンに搭載されている慣性センサーは、画面の向きを自動に変える機能や歩数計に用いられているものの、慣性センサーだけでの自己位置推定は高精度には行えない。
これらスマートフォン向けなどに用いられている一般的なMEMS慣性センサーは、MEMS内部に組み込んだ錘の変位を基に、角速度や加速度として検出するのが一般的だ。このように変位を基に計測する場合、ダイナミックレンジ(最大検出範囲)と精度にトレードオフが発生してしまう。
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