進まぬ製造DX 「データそのもの」の重要性を本当に理解しているか:真に「データ中心の製造DX」を実現するには(1)(2/3 ページ)
製造業でも経営や業務のデータドリブンシフトの重要性が叫ばれるようになって久しい。だが変革の推進は容易ではない。本稿では独自の「概念データモデル」をベースに、「データを中心に据えた改革」に必要な要素を検討していく。
「データ」の観点から見る従来の改革の問題点
前章で述べた変化は製造業の皆さまは既に認識されており、多くの改革に取り組まれていることだろう。「××業務改革」「××システムモダナイゼーション」「データ連携基盤/データHub構築」「デジタイゼーション/デジタライゼーション/DXの段階的進化」「データドリブン経営の実現」といった活動がそれに該当する。
特に業務の標準化/自動化、脱職人化を狙った活動への注目度が高いようだ。だが、それらの活動の結果が紙帳票のデジタル化、Excelのシステム化など、アナログ情報のデジタル化を意味するデジタイゼーションで終わったり、一部の人材にしか使われないシステム/データ連携基盤構築に終始したりということも多い。繰り返しになるが、これを防ぐには「データを中心に据えた改革」を真剣に検討する必要がある。
DXやモダナイゼーションを企画、推進する際は、多くの場合、業務改革やシステム刷新をセットにして取り組むことになる。その際によく用いられる考え方に、Enterprise Architecture(EA)がある。EAは業務層(Business Architecture:BA)、データ層(Data Architecture:DA)、アプリケーション層(Application Architecture:AA)、テクノロジー層(Technology Architecture:TA)に分けて、業務からシステムまでの要件や改革ポイントを整理していくフレームワークである。Fit and Gap型アプローチとFit to Standard型のアプローチがあるが、昨今では後者が主流だろうか。
これらのアプローチでは、データの在り方は業務要件またはシステム要件に対し、従属的に決まることになる。が、果たしてこの考え方で「データを中心に据えた改革」が実現できるだろうか。
例えば、製品に関する情報はバリューチェーン上では設計領域で生まれ、調達/生産領域を通じて販売/物流やサービスの領域に流れていく。このように、多くのデータは企業のバリューチェーンを構成する複数領域を横断して生成/活用される。よって、個々の業務要件やシステム要件に合わせたデータ構造が構築された場合、業務領域間やシステム間でデータを受け渡す際の不整合、重複が生じる。また変換業務自体が属人化の原因にもなる。
それを回避するためにマスターデータ管理(MDM)やデータマネジメントが着目されているわけだ。しかしこれらは基本的に、業務やシステムの要件が決まったあとの対応になるため、データの不整合や重複の解消には困難を伴う。こうなるとデータの集計、分析を行う際に信頼性やつながりが必ずしも担保されず、結果として改革における主目的の1つであるデータドリブンな経営が実現しづらくなってしまう。
こうした事態を防ぐために、経営観点の将来像が実現できるようなデータ構造を「概念データモデル」として表現し、個々の業務改革/システム改革における指針とするアプローチを提唱したい(図1)。なお、図1に記載した『今後求められるEAアプローチ』ではDAの直下にBAを配置しているがTAを配置することも可能である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.