「RT-11」はUNIXの“/usr”ディレクトリの語源なのか 歴史と機能から検証する:リアルタイムOS列伝(48)(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第48回は、UNIXの“/usr”ディレクトリの語源という説が流れた「RT-11」について、その歴史や機能を紹介する。
RT-11が“/usr”ディレクトリの語源になるわけがない
さてそんなRT-11だが、当初からSystem Componentとして提供されているものにRMON(常駐型のMonitor)とKMON(キーボード用Monitor:コンソールからの入出力管理)、USR/CSI、Device Handler、それとSystem Programsがある(図2)。
図2 RT-11のマニュアルでUSR(User Support Routine)を説明しているページ。ちなみに、RT-11はv1とv2ではマニュアルの構成がかなり違っており、v1ではこのUSR/CSI向けの説明がほとんど皆無である。このためv2のマニュアルから引用している[クリックで拡大]
USRは“User Support Routine”、CSIは“Command String Interpreter”の略である。USRの方はこちらの説明にあるように、プログラムからファイルを扱えるようにするためのFile Handleと、そのFile Handleに対しての操作(Open/Read/Write/Close)の機能を提供するためのもの。一方、CSIはコンソールから対話的に操作を行うためのもので、MS-DOSでいう所のCOMMAND.COMに相当するものと考えてもらえればよい。このCSRは、もともとはRSX-11上でMCR(Monitor Console Routine)としてまず提供され、後にDCL(Digital Command Language)としてより使いやすくなったサブセット的なものであり、後のRT-11ではCSRもDCLに進化している。
このUSR/CSIだが、System Componentではあるものの必須ではない。先にも説明したように、RT-11を利用するシステムが必ずしもディスクを使うとは限らないからUSRのロードは必須ではないし、最低限の制御が可能なMonitor(KMON)は別に搭載されているから、ユーザーが対話的に操作するのでなければCSIも必要ない。そんな訳でシステム構成(これを行うためにSYSGENというユーティリティーも用意されている)の際にUSR/CSIは外すことが可能である。
冒頭の話に出てきた「UNIXの/usrの語源である“User Service Routine”」の実態はこんなものである。どう考えても、これがUNIXに影響を及ぼすようなものではない、というのがご理解いただけたかと思う。まぁ普通のユーザーはRT-11のことなど知らないだろうから、そう誤解しても無理もないのかもしれないが。
さてそんなRT-11だが、後継のMicroVAX+VAXELNの登場によりどんどんマーケットが置き換えられていったこともあり、DECも2000年代に入ってRT-11のサポートをどんどん減らしていった。最後のPDP-11は、1990年に登場したPDP-11/93とPDP-11/94だが、1980年代からDECはVAXの方に注力しており、PDP-11やRT-11/RSX-11を積極的に販売する理由は全くなかった。結局COMPAQによるDEC買収の後に行われたリアルタイム製品のSMART Modular Technologiesへの売却に合わせて、VAXELN同様に消えてしまったのだった。
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