サプライウェブで実現するマスカスタマゼーション時代の企業戦略をローランド・ベルガー小野塚氏が語る:鼎談レポートシリーズ (2/5 ページ)
日本の基幹産業である製造業にも、デジタルトランスフォーメーションの波が押し寄せています。今回は「サプライウェブで実現するマスカスタマゼーション時代の企業戦略」をテーマに、コアコンセプト・テクノロジー取締役CTOの田口紀成氏と、CCTのアドバイザーでもある福本勲さんのお二人がローランド・ベルガーの小野塚征志さんを招き鼎談を行いました。
EVはPC同様にパーツの組み立てで作る時代がやってくる
小野塚 CASEについて、電気自動車が増えれば、ガソリンスタンドが不要になる、カーシェアが増えれば自家用車が減る、火力発電の問題はあるにせよ目先ではカーボンニュートラルが進むといった指摘があります。そうした中、私は今回のテーマであるサプライチェーンに大きな衝撃が走ると考えています。
EVの特徴は、エンジンが不要であるなど製造が簡単になることです。実際に中国にEVメーカーが次々と生まれているのはそれが理由です。従来の自動車製造は、自動車メーカーを中心に、資材などの調達網を形成し、少なくともモデルチェンジがあるまでは調達先を固定化するのが一般的です。しかし、EVは、モーターがあれば動くもの、極論すると「ミニ四駆」にも例えられます。3年では無理でも、10年、20年後はPCと同様に組み立てれば作れるようなものになる可能性があります。
福本 私は2つの論点があると考えています。1つ目はゼロベースでプラットフォームをEVに最適なものにすることで、従来とは明らかに作り方が変わっていくと考えられることです。2つ目はインタフェースが標準化をしていけば、PCと同様のビジネスモデルになり得るということです。メインの機能以外はサードパーティー企業が供給するものを組み合わせ、ユーザーの希望に添ってカスタマイズして供給されるといった仕組みになっていく可能性もあると思っています。
小野塚 おっしゃる通りです。「組み立てれば自動車がつくれる」となった時に、調達のためのサプライヤーを固定する必要があるのかという議論になります。「今月は安いとこから調達しよう」と考えるのが自然です。販売側も同じです。今はメンテナンスや車検などを考慮して自動車メーカー系のディーラーから自動車を購入する人が多いかもしれませんが、壊れたらモーター、バッテリーなどを取り換えればいいとなると、現在の家電と同じイメージになります。かつては家電も、地域に根ざした小規模の家電店で購入する時代がありました。
一方、現在は量販店であるヤマダ電機やヨドバシカメラあるいはECで買うのが主流になっています。自動車も20年先にはそうした店舗で買うことになるのではないかという指摘があります。調達先を柔軟に変えるような取引関係でないと、ビジネスとして成立しなくなるのではないかということです。
もう1つお話を紹介します。皆さんが自動車を購入する際には、他人からの見え方、乗り心地など詳細を気にすると思います。一方で、タクシーに乗る際に「かっこいいタクシーに乗りたい」とか「この色のタクシーがいい」などのようにはあまり考えないでしょう。同様に、カーシェアの時代が到来することについて考える時に、私だったら、家の近所にあって、雨の日でも歩いて30秒で到着できるカーシェアサービスがあればそれを選ぶと思います。
田口 そうですね。私もそちらを選びます。あくまでも自動車は移動手段と考えます。
小野塚 そうなった時に、たくさんの車種が本当に必要ですかという疑問が湧きます。T型フォードの時代に戻って考えた方がいいのではないか、となります。大量に作って、頑健で、燃費がまずまず良いものを標準化して大量生産する。標準化されていれば、モーターやバッテリーも手軽に交換できます。その時に、現在のサプライチェーンって必要なのかという議論が出てきます。現在の自動車はつくりが複雑だからこそ、サプライチェーンの管理が大変といわれています。
カーシェアにおいて、乗り心地とか走行性、燃費などを細かく確認するでしょうか。家から近いとか、経済的であるといった基準になるのではないでしょうか。その際に、自動車メーカーが一生懸命に取り組んでいるモノづくりってどんな価値があるのかという見方が出てきます。Mobility as a Service(MaaS)の時代にも、もちろんいいクルマを作ることは大事なのですが、それよりもユーザーにとって便利な場所とタイミングでサービスを提供するサプライウェブの考え方が重要になるというのが、私の立ち位置です。
CORE CONCEPT TECHNOLOGIES INC.