アイ・オー・データがUbuntuを担ぐ理由「新たなOSの選択肢を増やしたい」:組み込み開発ニュース(1/2 ページ)
アイ・オー・データ機器が英国Canonical Group(カノニカル)との間でLinux OS「Ubuntu」のライセンス契約を締結。組み込み機器向けに商用で展開している「Ubuntu Pro for Devices」のプログラムに基づき、アイ・オー・データがUbuntuプリインストールデバイスの販売に加え、Ubuntu Pro for Devicesライセンスのリセール事業を開始する。
アイ・オー・データ機器(以下、アイ・オー・データ)は2024年6月19日、東京都内で会見を開き、英国Canonical Group(カノニカル)との間でLinux OS「Ubuntu」のライセンス契約を締結したと発表した。組み込み機器向けに商用で展開している「Ubuntu Pro for Devices」のプログラムに基づき、アイ・オー・データがUbuntuプリインストールデバイスの販売に加え、Ubuntu Pro for Devicesライセンスのリセール事業を開始する。Ubuntuプリインストールデバイスについては、医療機関のレセプト情報の保存などに最適なRAID1のNAS(Network Attached Storage)として利用できる高信頼性モデルと省スペースPCモデルの2機種を皮切りに、カスタマイズモデルを数機種投入する方針。初年度は、これらのUbuntuプリインストールデバイスを中心に8億円の売上高を目指す。
会見の登壇者。左から、アイ・オー・データ 事業開発室室長の堀英司氏、同社 代表取締役会長の細野昭雄氏、Canonical Japan IoT Sales Directorの金只敦嗣氏[クリックで拡大]
アイ・オー・データ 代表取締役会長の細野昭雄氏は「さまざまな機器でWindowsやiOS、AndroidといったOSが用いられているが、欧米で採用が進みつつあるUbuntuを新たな選択肢として増やしたいと考えた。また、オープンソース活動との関わりによって、他のOSよりもITの仕組みづくりに近しいUbuntuが浸透することで、日本の低い『IT自給率』の改善にも貢献できるのではないか」と語る。
アイ・オー・データとカノニカルは、2023年からUbuntuの普及に向けての協業について検討してきた。2024年4月には、組み込み機器向けにUbuntuの導入を拡大するための商用ライセンスプログラムであるUbuntu Pro for Devicesが発表されており、今回アイ・オー・データはこのUbuntu Pro for Devicesのライセンス契約をカノニカルと締結した。アイ・オー・データ 事業開発室室長の堀英司氏は「これまでUbuntuは自分でインストールして使うOSであり、キャズム理論で言うアーリーアダプターやイノベーター向けのものだった。今回、Ubuntu Pro for Devicesのライセンス契約を締結することで、日本国内でUbuntuがキャズムを越えることを支援したい」と強調する。
また、欧州の政府や自治体を中心に、情報の機密性や独立性、持続可能性といった文脈でWindowsやクラウド依存からの脱却を加速する動きにも注目している。「日本政府のガバメントクラウドもパブリッククラウドだけでなくプライベートクラウドを重視する方針を打ち出している。エッジ活用により情報の一極集中を避ける取り組みも今後活発になるだろう」(堀氏)という。
とはいえ、Linux OSでは、エンタープライズ向けではRed Hat、組み込み機器向けではWind River Systemsなどさまざまな選択肢がある。アイ・オー・データがそられの中からUbuntuを選んだ最大の理由は、組み込み機器向けとなる長期サポート(LTS)版が2年に1回リリースされることと、セキュリティアップデートの提供期間が最長で12年と長期に渡る点にある。無償ライセンスについても、リリースから5年間のセキュリティアップデートが提供されるが、無償ライセンスではさらに5年間が標準で追加され、さらなる延長オプションを選ぶと2年間が追加されるという仕組みだ。このLTS版の安定したリリースサイクルと、10年以上の長期に渡るセキュリティアップデートにより、組み込み機器ベンダーにとってはアプリケーション開発やバージョンアップ計画が立てやすくなる。
また、無償版のUbuntuはLinux OSとして、コンテナやAI(人工知能)、ロボット開発プラットフォームの「ROS」といったさまざまなオープンソースプロジェクトに利用されている。このため、多くのオープンソースソフトウェアを即座に利用できるプラットフォームになるメリットも大きい。
アイ・オー・データは、Ubuntu Pro for Devicesベースの組み込みコンピュータにより、機材の選定/検証、インストール時間、バージョンアップ作業といったユーザーの手間を“0”にする方向で製品展開を進める方針である。当初販売を予定しているのは、2ベイ/RAID1ストレージのNASとして利用できる高信頼性モデルと、さまざまな用途で利用可能な省スペースPCモデルの2機種だ。今後は、AIアクセラレータを搭載するハイエンドモデルや、より小型でライトなエントリーモデルの開発を計画しているが「当社だけでは顧客のさまざまな要望に応えられない。そこでUbuntu Pro for Devicesのライセンスのリセラーとして、さまざまな組み込みコンピュータのベンダーをパートナーとして選択肢を増やしていきたい」(堀氏)としている。
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