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マルチパスウェイ、EVのCO2削減、車電分離……クルマの脱炭素の形は電動化(2/3 ページ)

トヨタ自動車の中嶋裕樹氏がマルチパスウェイの意義、EVが製造時に排出するCO2の削減に向けたさまざまなアプローチのアイデア、バッテリーのリユースやリサイクルに向けた“車電分離”の提案など、自動車のカーボンニュートラルについて幅広く語った。

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「500km走れるバッテリーは私5人分の重さです」

 中嶋氏はダイエットに成功して体重が92kgになったと明かしながら「1回の充電で500kmを走行できるEVのバッテリーは、私5人分の重さがある」と紹介した。多くのクルマの重量が1500k〜2000kgであることを考えると、クルマにとってバッテリーがいかに大きく重い部品であるかが分かる。

 バッテリーの材料には、リチウムやニッケル、コバルトといった希少資源が使われている。1回の充電で500kmを走行できるバッテリーを例にすると、リチウムとニッケルがそれぞれ40kg、コバルトは13kgを使用する。希少資源が素材として高価であるだけでなく価格変動が大きいことを踏まえると、「車両価格に反映するのは非常に難しいというのが実態」(中嶋氏)だという。

 バッテリーのコスト削減において、希少資源の使用量を減らしたり、代替材料に切り替えたりすることのインパクトは大きい。こうした分野の開発が進むことが望まれているという。

 バッテリーの製造時に排出されるCO2の削減も課題だ。例えば、1回の充電で500kmを走行できるバッテリーの場合、バッテリーの製造工程で排出されるCO2は車両製造時の排出量全体の約30%を占めるという。量にして4トン、杉の木が年間に吸収するCO2の量に置き換えると280本分に相当する。

 中嶋氏はバッテリー製造時のCO2排出を「原材料」「2次加工」「組み立て」の3つに分けて紹介した。原材料に関しては、採掘された鉱物から原材料を取り出すための高温高圧処理でエネルギーの使用量が大きい。正極材で使うニッケル化合物の抽出には30気圧で200℃という条件が必要だ。負極材で使用する黒鉛は、まず1200℃の熱をかけながら石炭からコールタールを取り出し、さらに3000℃の熱でコールタールから黒鉛が製造される。2次加工や乾燥工程、組み立て時の保管でもCO2を排出する。

バッテリーのサイズは最適化できるか

 EVのCO2排出を減らすには、well to tankの観点では再生可能エネルギーの利用を徹底することが重要だ。tank to wheelには効率向上や省エネも貢献する。製造時のCO2排出でも再生可能エネルギーの活用や省エネは必要だが、中嶋氏は「バッテリーのサイズを最適化することも対策の1つとして考えられる」と説明した。

 クルマが1日に走行する距離を調べると、90%のユーザーは100km以下だ。日常の買い物や通勤通学、週末のレジャーなど用途はさまざまだが、使われる時間は1日の10%程度であるという。「私5人分の重さのある大きな電池がただ駐車場に置かれているだけ。そんな無駄をなくしていくには、ユーザーのニーズにぴったりなバッテリーサイズを提供することも、CO2排出削減の1つのソリューションになるのではないか」(中嶋氏)

 ニーズに合ったバッテリーサイズを提供する方法としては、モデルのグレードごとに2種類のバッテリーを設定することが考えられるという。中嶋氏は「近距離しか走行しないユーザーには1回の充電で200km程度を走行できる小さなバッテリーを、長距離を運転するユーザーには500km程度走行できる大きな電池を用意し、選んでもらう」と説明した。

 物流であれば1日に走行する距離は明確で、コストの効率化という観点で必要十分なバッテリーを選ぶことは難しくない。ただ、一般の消費者の場合は、日常的に乗るのは1人でも、年に数回のために7人乗り、8人乗りのミニバンを選ぶことも多い。「2種類のバッテリーを提案したら、1回の充電で長く走行できる方が安心できて良いと考える消費者が多いかもしれない。ユーザーのマインドがどのように変化するかはまだ分からないので、こうした提案にチャレンジしてみたいと考えている。啓発に向けて自動車業界で議論できるかどうかもポイントだ」(中嶋氏)

トヨタが考える「バッテリー交換式EV」

 また、遠出の予定に合わせて販売店で大きなバッテリーに載せ替えるアイデアも紹介した。充電の待ち時間を短縮するために充電済みのバッテリーと交換するのではなく、事前に分かっている予定のときだけバッテリーを大きなものに交換するという考えだ。充電時間の短縮のためにバッテリーを用意する場合、車両の台数よりも多くのバッテリーを用意し、充電して待機させておく必要があり、稼働率が低ければ無駄が発生することが課題となる。

 PHEVもバッテリーに起因するCO2排出を削減する対策の1つであると中嶋氏は述べた。突然の予定で長距離の運転が必要になり、電池を載せ替える時間がない場合に、現在よりも電池を多く積んだPHEVが役立つという。「1回の充電で200kmを走行でき、普段はEVとして使うことができるが、万が一の時にはガソリンでも走行できる。さらにカーボンニュートラル燃料を使えば、tank to wheelのCO2排出も抑えられる。このようなPHEVを“プラクティカルなEV”と位置付けている」(中嶋氏)

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