「デザイン経営」とは? なぜデザインが経営に貢献できるのか:設計者のためのインダストリアルデザイン入門(10)(2/3 ページ)
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。今回は「デザイン経営」の定義や特長、そして“なぜ企業経営にとってデザインが重要なのか”について詳しく解説する。
では、なぜデザインに取り組むことがブランドとイノベーションに対して効果があるといえるのでしょうか。これから先は、ブランドやイノベーションに対するデザインの効果について過去の研究や事例などに基づき解説していきます。
なぜデザインはブランド力を向上できるのか?
なぜデザインは、ブランド力を向上できるのでしょうか。以下に、経営にデザインを取り入れることによって、企業または製品のブランド力が向上する要因をいくつか紹介します。
デザインがブランドにもたらす効果
・事業の差別化
・資産価値の向上
・従業員満足度の向上
・顧客起点経営の推進
事業の差別化
デザインは、企業やブランドのアイデンティティー(独自性)を視覚的に表現し、顧客の心に強い印象を残すことを得意としています。デザインによる魅力的な視覚表現は、市場での企業の位置付けを明らかにするとともに、顧客に明確なメッセージを伝えることに役立ちます。
また、見た目だけでなく、デザインは、製品やサービスの使いやすさ、理解しやすさ、楽しさを構築することにも活躍します。もし、他と異なる体験が得られるサービスだと認知されれば、リピート購入や口コミによる新規顧客の獲得などにつながります。
例えば、同じコーヒーでも、スターバックスとその他のカフェでは、店舗デザインや商品パッケージ、Webサイトのデザインなどを通じて、それぞれ異なるブランドイメージや価値を消費者に提供しています。
この違いを生み出すのがデザインの役割であり、ブランド力を向上するために必要な差別化の源泉です。
資産価値の向上
デザインされた製品やグラフィックスは、知的財産として保護し、企業の資産にすることが可能です。知的財産は市場への他社の参入を防ぎ、先述の差別化にも寄与します。
また、それだけでなく、生み出された知的財産を活用および管理することで、製品やサービスの表現および提供価値に一貫性を持たせることができます。そして、これらに一貫性を持たせることができれば、ブランドの認知向上、ブランドから連想する製品像の明確化が可能となります。
先述したように、ブランドの価値はこの認知度や連想によって評価できます。多くの人がそのブランドに対して良いイメージ(品質が良い、かっこいい、使いやすいなど)を連想するのであれば、そのブランドの価値は高いものであるといえるのです。
例えば、ブランド価値が高いとされる、Apple(アップル)という会社とそのリンゴマークを知らない人はほとんどいない(認知度が高い)でしょうし、Appleの製品はシンプルで洗練された外観と高い操作性を持っている(ブランド連想)というイメージを抱いている人は多いはずです。Appleもデザインを経営に活用することで、時間をかけてブランド価値および企業の資産価値を高めてきたのです。
従業員満足度の向上
経営にデザインを導入することは、従業員満足度の向上にもつながります。
ロゴをはじめとするデザインされたブランドツールは、従業員が会社の個性や理念を自分事として捉えやすくすることに効果があります。これによって、従業員の帰属意識や会社への愛着、忠誠心(ロイヤリティー)が醸成され、モチベーションの向上や従業員満足度につながる可能性が高まります。
日本におけるコーポレートアイデンティティーの第一人者である、中西元男氏もその著書の中で、「ロゴマークは企業の思いを以心伝心で伝える視覚コミュニケーションの重要要素であり、会社内部においては、従業員を団結させるマネジメントツールである」と説明しています。
顧客に限らず、従業員のブランドに対する愛着や忠誠心(ロイヤリティー)もブランド価値を構築する要素の一つであり、これが高ければ企業のブランド価値も同様に高まります。
顧客視点経営の推進
「顧客視点経営」とは“組織がその事業を行う際に、顧客の立場や視点を重視して意志決定を行う経営手法のこと”を指します。顧客視点経営の下では、商品開発やサービス提供、マーケティング戦略など、あらゆるビジネスプロセスを顧客のニーズや期待に基づいて設計、実行されます。
もとより、デザインは製品やサービスの使用体験を通して、顧客のニーズや課題を深く理解することに重点を置いています。例えば、デザイナーはそのプロセスの中で、意匠性検討、操作性検証、ユーザーインタビューなどを実施しますが、これらは全て顧客のフィードバックに基づき検討が推進されるものです。
これら業務で培ったデザイナーの顧客理解力は、企業の顧客視点経営を推し進め、単なる製品の美的価値だけでなく、機能性や使いやすさ、顧客ニーズの発見、さらにはサービス全体の顧客満足度の向上にも寄与します。その結果、顧客のブランドへの信頼と満足度を高めて、ブランド価値の向上に寄与します。
ちなみに、顧客視点の対になる言葉としては、例えば「技術視点」や「製品視点」がありますが、これらの視点が良くないというわけではありません。
例えば、ダイソンには、デザインとエンジニアリング双方の知識を併せ持つ「デザインエンジニア」と呼ばれる職能があります。彼らは消費者の目線を基に、デザイン部門と技術部門の知見を擦り合わせながら製品開発を推進し、技術的にも顧客的にも品質の高い製品を創出しています。
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