個社を超えた産業界全体の革新を データエコシステム構築が必要とされる理由:産業データエコシステムがビジネスにもたらす新しい価値
DX推進では組織内外でデータを共有することが何より大切です。海外では産業界のデータエコシステム構築を利用する動きが見られます。なぜ、データエコシステム構築は必要とされているのでしょうか。本稿ではその理由を解説します。
機械が自動でメンテナンスの必要性を予測し、需要の変化にリアルタイムに対応するサプライチェーン革新。比類なき効率性の基に動く産業全体を人間が管理する未来が、今、世界では急速に現実のものになりつつあります。
海外の先進企業は、産業データエコシステムへの投資を加速させています。 調査会社であるIDCの2023年の産業データエコシステムの将来に関するグローバル調査※1では、回答者の大多数(90%)が、2023年から2024年にかけて、産業データエコシステムへの投資を維持、または加速させる予定だと答えました。主な動機としては、ビジネスの機敏性の向上、プロセス自動化の改善、システム統合の強化、ESG関連の連携も目的としたパートナーとのデータ共有の増加などが挙げられています。
※1:エネルギーや建設、プロセス製造、政府機関、その他業界の経営幹部およびビジネスラインの意思決定者1288人を対象に実施。
一方で、日本の製造業はどうでしょうか。国内製造業は、国際情勢の不安定化に伴うサプライチェーン寸断リスクや資源不足、脱炭素の実現に向けた世界的な機運の高まり、顧客ニーズの変化などより海外と同様に大きな変化を余儀なくされています。しかし、経済産業省が発行する「2023年版ものづくり白書」によると、企業間のデータ連携や可視化の取り組みができている製造事業者は2割程度にとどまるようです。
データこそが産業企業の成長基盤
現在、世界ではあらゆる企業が顧客やサプライヤー、パートナー、オペレーターとともに、産業データエコシステムを利用しています。このような統合ネットワークは、以前は別々だった2つ以上のセクターを包含することもあります。いずれの場合でも、このようなデータエコシステムは、テクノロジー開発者を含むエコシステム内の各プレーヤーに価値をもたらします。
このコラボレーションの中心となるのは「データ」です。 現在、産業組織はかつてないほど大量のデータをさまざまなソースから収集しています。しかし、この戦略的資産はテクノロジーやセキュリティ、ガバナンスの障壁によって、収集時点ではサイロ化された状態にあることが多く、社内部門ですら容易にアクセスできなくなっているという課題があります。
DX推進で組織全体、そして外部パートナーがデータを共有することで、エコシステム内の全てのプレイヤーが、バリューチェーンにおける役割を最適化する方法を状況に応じて理解できるようになります。産業組織はライフサイクル全体にわたるシームレスなコラボレーションを実現し、全てのステークホルダーにとって大きな価値を生み出し、サステナビリティを向上させることが可能になります。
すでに世界中で、多くのプレーヤーが産業データエコシステム構築のためのプラットフォームサービスを活用し、下記の5つのようなプラスの成果を上げています。
- コラボレーションによる効率性の向上:信頼できる唯一の情報源からのデータを共有することで、専門家は場所や技術的な背景に関係なく、より適切な意思決定を迅速に行うことができる。
- 環境、社会、ガバナンス(=ESG)目標の達成:統合されたバリューチェーンデータを状況に応じて参照することで、循環性の向上や効率性の改善、排出量の削減、規制順守の強化といった、サステナビリティへの取り組みが最大の効果を発揮する、相互に関わる領域を明確にすることができる。
- 個人および共同のイノベーション強化: 安全なデータ共有コミュニティーから得られる競争上の優位性によって、信頼できるサプライヤーやパートナーとの関係が強化される。また、リアルタイムデータに状況を反映させることで、企業は研究開発を促進し、共同でイノベーションを起こして、お互いに競争上の優位性を高めることができる。
- 意思決定の改善:多様なデータソースと拡張可能なアプリケーションを、エコシステム内でシームレスに接続することで、企業はより豊富で完全なインサイトを得ることができる。その結果、運用コストを削減し、収益を向上させることが可能に。
- ビジネスを変革して迅速な収益を実現:産業データエコシステムは、数日から数週間どころか、数時間以内に価値を提供する。従って、企業は導入をより迅速に達成し、市場範囲を拡大して、スケールメリットを享受できる。また、ソフトウェアの先行投資および継続的なIT、メンテナンス費用の削減によるコストの低減を実現。
テクノロジー企業が産業データエコシステム構築を進めるために
産業データエコシステムは業界のニーズを満たすことにも役立っています。このようなエコシステムの考え方は同時に、テクノロジープロバイダーや開発パートナーのイノベーションもサポートしています。
デジタルプラットフォームとは、特定のビジネスニーズに合わせて調整できる、多数の補完的なソリューションとアプリケーションを結集したものです。このような業界データコミュニティーの中心となるのは、相互接続されたソフトウェアアプリケーションやサービス、プラットフォームのネットワークです。これらをシームレスに統合することで、プロセス効率を向上させながら、最終顧客にとっての新たな価値を生み出します。
オープンで中立的なプラットフォームにより、パートナーは新しいテクノロジーやサービスの開発を促進し、機敏性と顧客に対する価値を高めることができます。 標準化されたフォーマット内で特定のデータストリームを安全に共有し、きめ細かい制御を行う機能によって、知的財産を損なうことなく、新しいアプリケーションや付加価値サービスを開発できるようになります。
現在、世界では人工知能など1分野の開発が別の分野の進歩をサポートするような、領域を超えたイノベーションが増加しています。こうした状況下で、オープンなプラットフォームが持つ適応性は大きな変革をもたらします。コネクテッドデータエコシステムは、進化し続ける産業環境において開発者に必要なメリットを提供するでしょう。
最後になりますが、産業データエコシステムの魅力は、エンジニアにとってなじみのある概念である、フライホイール効果を加速する能力にあると考えられます。小規模な成功が時間の経過とともに積み重なり、ビジネスの成長を続ける勢いを生み出すのです。同様に、ここで述べたような種類の統合データコミュニティー内では、あらゆるプレーヤーがリアルタイムで回復力の再調整を行い、全てのステークホルダーに対して継続的な利益をもたらすことができます。
産業データエコシステムがもたらす持続的かつ飛躍的な成長の可能性は、企業や開発者に個別に価値をもたらすだけではありません、ステークホルダー全体に価値を生み出して、私たちの未来の基盤となるでしょう。
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筆者紹介
ローナン・ド・ホージ(Ronan de Hooge)
AVEVA クラウドプラットフォームビジネス担当 副社長
AVEVAのインダストリアル・クラウド・プラットフォームであるAVEVA Connectの機能拡張を担当。
クラウドコンピューティングにおける数十年の経験を生かし、産業用データを集約、分析、可視化、共有し、顧客がデジタルトランスフォーメーションによる持続可能なビジネス価値を実現できるよう、クラウド機能の拡張をリードしてきた。 ローナンは、金属・鉱業業界でプロセスエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、2001年にソフトウェア開発者としてOSIsoft(現AVEVA)に入社し、マイクロサービスアーキテクチャ、クラウドコンピューティング、斬新なアジャイル開発手法の導入を主導するなど、20年以上にわたり数々の指導的役割を担当してきた。
ダブリンのユニバーシティ・カレッジで化学工学の学士号を取得。
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