国内製造業が苦手なコネクテッド製品開発の道筋はリーンスタートアップの先にあり:製造業DXプロセス別解説(9)(1/2 ページ)
製造業のバリューチェーンを10のプロセスに分け、DXを進める上で起こりがちな課題と解決へのアプローチを紹介する本連載。第9回は、IoT(モノのインターネット)の普及により市場が拡大している「コネクテッド製品」の「購入/使用」における課題とその解決策について解説する。
前回は、物流領域におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けて日本の製造業が取り組むべきことについて論じた。今回は、IoT(モノのインターネット)の普及により市場が拡大している「コネクテッド製品」の購入/使用における課題とその解決策について解説する。
コネクテッド製品の購入/使用における課題
われわれの日常生活においてコネクテッド製品はますます普及している。スマートフォン、タブレット端末、スマートウォッチ、スマートスピーカーなどのデバイスから、自宅の家電製品や自動車まで、さまざまな製品がインターネットに接続されデータのやりとりが行われている。
しかし、コネクテッド製品の普及に伴い、購入/使用における課題も表面化している。例えば、コネクテッド製品は高価で多機能なものが多く、製品の仕様や性能などを十分に理解してもらうことが重要だが、情報提供が不十分な場合があり、ユーザーが満足する製品を選択しづらいという問題がある。また、購入に至ってもセットアップや初期設定が複雑で、使い方が分からず使用をためらったり、時に返品されたりすることもある。今後、多機能化はさらに進むと思われ、ユーザー視点に立ったきめ細かな情報提供は必須になるだろう。
こうしたユーザーへのコミュニケーション不足に加え、重要な課題として挙げたいのはロット管理である。ロット管理とは、製品の生産ロットごとに品質管理やトラブルの追跡を行うことだ。コネクテッド製品は、ユーザーの利用実績やSNSなどのデータを解析/活用して新機能の追加や改善対応に役立てるために、ソフトウェアやファームウェアのアップデートを頻繁に行うことが求められる。しかし、ロット管理が適切に行われなければ、製品バージョンやデータの適切な管理が行えずにバグやセキュリティの脆弱性を招くだけでなく、ユーザーの声を迅速に製品へ反映できず継続的な顧客体験向上の機会を損失することになりかねない。
製造業におけるコネクテッド製品開発の課題
こうした課題を解決するために、欧米の製造業では古くから「リーンスタートアップ」の考え方が注目を集めてきた。リーンスタートアップとは、2008年にアメリカの起業家エリック・リース氏によって提唱され、「できるだけ少ない費用や手順で迅速かつ効率的に最低限の製品(MVP:Minimum Viable Product)を作り、顧客の反応を繰り返し確認することで方向性を定め、ビジネスを無駄なく回していく」という、スタートアップ企業のためのマネジメント手法のことである。テスラ(Tesla)が量産EV(電気自動車)の第1弾となる「モデルS」の開発に際してMVPを活用したことをご存じの読者も多いだろう。技術革新や社会情勢によりユーザーの嗜好や価値観がスピーディーに変化していく今、こうしたアプローチが有用だ。
しかしながら、日本の製造業ではこのような手法は十分に浸透していないのが現実である。国内の製造企業においてリーンスタートアップの導入およびコネクテッド製品の購入/使用を意識したモノづくりが進まない要因として以下の点が挙げられる。
- ソフトウェア技術の不足:従来製品の開発に特化した技術がいまだに主流であり、コネクテッド製品の開発や運用に必要なハードウェアとソフトウェア両方に関する最新技術やノウハウが不足している
- 顧客ニーズの理解不足:コネクテッド製品はデジタル技術を活用した新たな機能やサービスを提供することができる。コネクテッド製品に対するユーザーの要求や期待を的確に把握することで、選ばれる製品に育てることが重要だが、従来の企業側の都合で企画された製品開発においては顧客のニーズを把握することが難しく、コネクテッド製品に対する顧客の要求や期待を的確に把握しづらい
- セキュリティとプライバシーの懸念:コネクテッド製品は常時インターネットに接続されることが多く、セキュリティやプライバシーの問題が重要視される。製造業では、これまでの製品開発に加えて最新のセキュリティに取り組む能力や意識が不足している場合がある
- 企業文化の変革の難しさ:製造業では、製品を従来のウオーターフォール型で一度作ってしまえばそれで終わりという考え方が根強く、サイロ化された部門からの反発や経営層のコミットメントが十分でないといった理由により、データ活用によるユーザー視点でのサービス提供など新たなビジネスモデルへの転換が難しい
上記のような課題を抱えリーンスタートアップを取り入れづらい企業のために、提案したいアプローチがある。次ページ以降で具体的に紹介したい。
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