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UNIXを逆順で読んだ「Xinu」は教育向け、RTOS開発者のレファレンスにもリアルタイムOS列伝(41)(2/3 ページ)

IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第41回は、パデュー大学 教授のDouglas Comer氏が開発した、教育向けのRTOS「Xinu」はを取り上げる。

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1991年にいったん打ち止めも、2015年まで開発は継続

 1985年からはComer氏の研究室の学生が、さまざまな機種にXinuの移植を行っている。この時期に移植対象となったのは、Sun MicrosystemsのSPARCstation、AppleのMacintosh、DECのDECstation 3100(搭載しているのはMIPS R2000)とVAX、それにTransputerとなっている。

 また翌1986年にはニューヨーク州立大学ポツダム校 教授のTimothy Fossum氏が初代IBM-PC(8088搭載)への移植を、英コベントリー大学のAndy Giggal氏が4画面出力が可能な80286ベースのマシンに移植をそれぞれ行っている。1987年にはPC版のテキストもComer氏とFossum氏の共著で完成。1989年にはMacintosh版のテキストも完成している。

 1990年には32ビットのx86に移植が行われ、仮想記憶のサポートも追加された。1991年には完全なTCP/IPスタックが実装される。ただ細かいバグフィックスはともかくとして、大きな変更はこのあたりでいったん打ち止めとなっている。

 特に、Comer氏が2006〜2009年に一時的にパデュー大学を離れ、Cisco SystemsでVP, Researchのポジションに就いていた間は、Xinuに関わっている時間が取れなかったようだ。それもあってか、この時期にComer氏はマーケット大学 教授のDennis Brylow氏に資金援助を行って、(Ciscoの子会社だった)LinksysのMIPSアーキテクチャベースのルーターにXinuの移植を依頼している。

 その後パデュー大学に戻ったComer氏は、Brylow氏の書いたコードを基に新バージョンのカーネルと最小限のネットワークプロトコルを実装、さらにx86アーキテクチャへの移植を行う。2014年、IntelからGalileoボードが120枚寄贈され、またBeagleBone Blackボードを何枚か手に入れたことで、これら2つのプラットフォームに向けてコードを書き直し(これはComer氏ではなく、パデュー大学のXinu Labが行ったもよう)、リリースしている。

図3
図3 「Operating System Design: The XINU Approach 2nd Edition」の日本語版 出所:KADOKAWA

 2015年には、この新しいカーネルをベースに、CISC/RISC両方に対応したXinuをベースにした「Operating System Design: The XINU Approach 2nd Edition」も出版されており、この2nd Editionは日本語版も2020年に出版されている(図3)。

 Xinuそのものはこのあたりで改良などは打ち止めになってしまっており、既にGalileoが手に入らない(2017年に販売終了)状態では試すのも難しいが、BeagleBone Blackはまだ販売されているので、試すとしたらこちらを使う感じになるだろうか。

 ちなみにビジネスとしては、1980年代にDECやNCRがX端末に、1990年代にはLexmarkがプリンタの制御用に採用した他、LANL(米国ロスアラモス国立研究所)が分散型データ収集システムの構築に採用している。変わったところでは、Intelが1997年にVPNソリューションを提供しているShivaを買収したところ、Shiva OSとして同社が提供していたものがXinuベースだった、という話が1999年に明らかになっている。

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