「私たちはアメリカンドリームを救った」、UAWが勝ち取ったものは:自動車業界の1週間を振り返る(1/2 ページ)
週末です。11月3日が文化の日でお休みだった方も、普通の金曜日だった方も、1週間お疲れさまでした。3連休ということもあってか、各地で大混雑が発生しています。
週末です。11月3日が文化の日でお休みだった方も、普通の金曜日だった方も、1週間お疲れさまでした。3連休ということもあってか、各地で大混雑が発生しています。まずは新幹線ですが、東京駅や名古屋駅、新大阪駅などがとても混み合ったようです。暑いくらいに天気がいいので、遠出にもピッタリですね。
「JAPAN MOBILITY SHOW 2023(ジャパンモビリティショー、旧東京モーターショー)」も連日のようにたくさんの人が訪れています。「平日とは思えないくらい混んでいる」との情報をソーシャルメディアで観測しており、私が行った11月2日木曜日も、お昼から夕方までブース内で人とぶつからずに歩くのが難しいくらいの人口密度でした。そんなに混雑していないだろうと予測していたサプライヤーのブースでさえその状態で、自動車メーカーのブースは一方通行で見学するよう順路が設けられていました。
ジャパンモビリティショーの来場者を眺めていて印象的だったのは、いろんなタイプの人がいることです。スーツやジャケットなどを着用し、仕事で来ている様子の人や、カメラが趣味の人がいるのは想像の範囲内でしたが、子どもを連れている人や、女子だけで来ているグループ、聞こえてきた会話から察するにクルマのことをよく知らない人などもたくさんいました。制服を着た学生のグループもよく見かけました。年齢や性別は見事にバラバラでした。
自動車技術にかかわりのある人が訪れる「人とくるまのテクノロジー展」とも来場者の雰囲気は違っていて、本当にいろんなタイプの人が集まっているのだと思います。日本自動車工業会は来場者数の目標を100万人と掲げていますが、どんな結果になるのか楽しみです(2019年の東京モーターショーの来場者数は130万人でした)。
賃上げだけでなく、工場の閉鎖や投資に物申すスト権も
ジャパンモビリティショーに名前が変わったとはいえ、このイベントは長きにわたって「自動車ショー」でした。未来のクルマやバイク、モビリティが並ぶ自動車ショーが関心を集め続けることができるのは、自動車産業にとってポジティブな材料ですよね。ただ、関心を持たれるだけでは魅力的な産業だとはいえません。クルマが売れ、企業の業績が良く、多くの人にとって働きやすく、これからも働きたいと思えることなどが必要です。
全米自動車労組(UAW)のストライキが始まった9月中旬ごろ、米国自動車メーカーの社員でUAWの組合員でもある男性のコメントをニュース番組が紹介していました。その中で男性は「昔は自動車メーカーで働ければ将来は明るかった。今はそうではない」という趣旨のことを述べました。
昇給があり、福利厚生が手厚い魅力的な業界に見えていたのでしょう。米国は自動車好きも多いでしょうから、好きなものを作る会社で好条件で働けるのはうれしいことですよね。しかし、物価高騰で家計が圧迫され、EV(電気自動車)シフトで雇用が減ることへの懸念が高まりました。
日本経済新聞によれば、UAWは賃上げだけでなく、勤続年数の長短による給与体系の格差是正、米国自動車メーカーが経営危機で廃止した確定給付年金や、物価に応じて賃金が上がる生活費調整の復活を求めました。UAWトップのShawn Fain氏はステランティスと労働協約の暫定合意に達した10月28日、「私たちは真にアメリカンドリームを救っている」とコメントしています。
フォード、GM、ステランティスのそれぞれと暫定合意に達し、UAWは10月30日にストライキの勝利宣言を出しました。3社とも今後4年半で25%のベース賃金の引き上げが行われます。しかも、合意内容が批准されればステランティスとフォードではすぐに11%の賃上げが反映されると公表されています。UAWは「これは2007年以降の全ての賃金上昇額の合計とほぼ等しい」としています。
一部拠点の等級が低いメンバーはステランティスで85%、フォードで76%の賃上げが直ちに実施されるそうです。期限付き雇用のメンバーも大幅に昇給します。また、物価に応じて賃金が上がる生活費調整など、「長年にわたって失われた重要なものを幾つか取り戻した」とUAWは声明を出しています。
フォードでは工場閉鎖に関するストライキ権も勝ち取りました。ステランティスでは、閉鎖に向けて稼働を停止していたイリノイ州のBelvidere工場が、ストライキを受けて新車やバッテリーの生産拠点に生まれ変わることが決まったようです。閉鎖に向けて解雇された1200人を一時解雇に戻し、再び同じ工場で働く権利も確保しています。
ステランティス全体では5000人の雇用削減が計画されていましたが、これを撤回させ、さらに5000人を追加で雇用することになりました。生産拠点に関わる製品や投資の計画を撤回しようとした際に戦うストライキの権利も勝ち取っています。
なお、トヨタ自動車は米国の工場で働く従業員を対象に9%の賃上げを実施するとメディア各社で報じられています。
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