製造業でデータ共有圏が広がる背景と、データ共有のインパクト:加速するデータ共有圏と日本へのインパクト(2)(2/5 ページ)
本連載では「加速するデータ共有圏(Data space):Catena-XやManufacturing-Xなどの最新動向と日本への産業へのインパクト」をテーマとして、データ共有圏の動向やインパクトを解説していく。今回はデータを共有することのインパクトを紹介する。
データ共有の前提となる「インダストリー5.0」
現在欧州ではインダストリー4.0の次の産業革命に関する議論、つまり「インダストリー5.0」の検討が進んできている。例えば欧州委員会においては「人間中心」「サステナブル」「レジリエント」をキーコンセプトとしたインダストリー5.0が2021年に発表されている。
インダストリー4.0はデジタル化により産業の効率化やビジネスモデルの変化を目指したものである。しかし、人間の視点や社会/環境の観点でそれが十分ではなく、その点を考慮したインダストリー5.0が提唱されたのだ。その他、中国や米国などインダストリー5.0の議論が着々と進んできている。次世代インダストリー4.0=インダストリー5.0の検討においては後述するデータ共有圏の取り組みが必須となってくる。
デジタル化の構造が複数企業間のデータ連携へシフト
サプライチェーン全体(Scope3)での排出量管理をはじめとしたサステナビリティ対応とともに、COVID-19、半導体不足、ウクライナ危機などサプライチェーンが分断される事態などに対応するためのレジリエンスが論点となる。その観点ではサプライチェーンや、取引先企業を超えてデータ連携を行っていくことが欠かせない。CPS(サイバーフィジカルシステム)時代に企業や領域の垣根がなくなりデータの連携の加速が求められる中で、欧州をはじめグローバルで企業を超えたデータ共有ネットワークの取り組みが加速度的に進む。
インダストリー4.0は企業とそのエコシステム(生態系と呼ばれるパートナー)間での「閉じた」デジタル化であったが、インダストリー5.0時代においてはデジタル化の在り方が変わる。より「オープン」にサプライチェーンや、企業/産業、産官学を超えたデータ連携を通じて新たなイノベーションを創出することへ力点がシフトしつつある。
例えば、インダストリー5.0のキーコンセプトの一つの「サステナビリティ」に関して自社のみならずScope3でのCO2排出のマネジメントが求められ、今後人権などのコンプライアンス順守のトレーサビリティーなども重要となる。その観点で新たなイノベーション創出の「攻め」の部分とともに、規制対応はじめ企業が存続し事業を行うための必須要件の「守り」の双方からもデータ共有がグローバルで加速度的に議論されているのだ。
米中プラットフォーマーへの対抗の側面も
欧州のデータ共有ネットワークの取り組みの背景には米国や中国への対応がある。
米国のGAFAMや中国のBATJは膨大な投資やリソースを投入し、自国市場の大きさから巨大なプラットフォームを形成している。ドイツをはじめとする欧州勢としてはメガプラットフォーマーが情報を握ることに関するデータの取扱いの懸念に対応するとともに、メガプラットフォーマーへの対抗として莫大なデータ量ではない競争軸を打ち出していく必要があるのだ。
欧州プレイヤーとしてはメガプラットフォーマーというよりもデータを持つ産業プレイヤーが中心となる。これらのデータ所有者が勝つ自律分散型の世界を目指している側面がある。
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