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スマホ時代にカメラの未来を作り出せ、キヤノンが「PowerShot V10」にかけた思い小寺信良が見た革新製品の舞台裏(27)(1/5 ページ)

2023年6月22日に発売した「PowerShot V10」でVlogカメラ市場に参入を果たしたキヤノン。しかし、そのスペックや価格設定を見ると、他社とは異なる着眼点があるように感じられる。PowerShot V10の開発者たちに、コンセプトや仕様について疑問をぶつけてみた。

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 2020年6月にソニーが「ZV-1」を、同年7月にパナソニックが「LUMIX G100」を発売して以降、多くのメーカーが「Vlog」をターゲットとした動画カメラをリリースしている。2021年のソニー「ZV-E10」がヒット作となり、2022年にはニコンも「Z30」で参入した。

 キヤノンはこれまでVlogに関しては静観の構えだったが、2023年6月22日に発売された「PowerShot V10」でVlogカメラへの参戦を果たした。従来のVlogカメラは明らかに何らかの下地となるカメラがあり、それを動画用に寄せた格好だったが、PowerShot V10は外観、スペックともに従来のカメラのセオリーを踏襲しないスタイルとなっている。


従来のカメラとはセオリーが異なるデザイン[クリックして拡大]

 価格的にも市場想定価格は5万円前後となっており、明らかに他社とは「見ているところが違う」ように見える。

 実はキヤノンが「ビデオで自分撮り」をコンセプトにしたのは、これが初めてではない。2013年にはすでに「iVIS mini」や「iVIS mini X」を商品化している。その先進性には舌を巻いたものだった。

 そこで今回はPowerShot V10の開発に関わった皆さんに、コンセプトや仕様についての疑問をぶつけてみた。お話を伺ったのは、キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 ICB事業統括部門の大辻聡史氏、同事業本部 ICB開発統括部門の石川幸司氏、同社総合デザインセンターの稲積めぐみ氏である。


左から大辻聡史氏、稲積めぐみ氏、石川幸司氏

スマートフォンでは足りないもの

――まず、PowerShotV10の「V」は、Vlogという意味なんでしょうか。

大辻聡史氏(以下、大辻氏) 実は違うんですよね。「Video Contents Creation」と「Video Communication」の「V」を取っています。

――では、特に現在のVlogシーンに用途を限ったものではないということですね。とはいえ、自分を撮ることにフォーカスした商品なのかなと感じているんですが、このカメラで狙っているところをお聞かせください。

大辻氏 自分自身を発信するようなビデオを撮る、という用途でご理解いただいて間違いないです。そういった製品にはすでにスマートフォンがありますが、今回特にPowerShot V10がフォーカスしたのは、スマートフォンでは満足しきれていない方々です。

 自分で動画を発信していらっしゃる方々にインタビューなどを繰り返していく中で、スマートフォンでの絵作りや、音声、その他取り回しへの不満があると分かりました。加えて、スマートフォン自体を見せる撮影ができないというような、新しい撮影専用デバイスを持ちたいというような要望があることもつかめたんです。


商品企画を担当したICB事業統括部門の大辻聡史さん

 でも、いざカメラを購入しようとするとなかなかハードルが高い。ちょっと大きいんだよなとか、カメラそのものの使い方を学ばないといけないんでしょ、みたいな課題感があることが分かりました。それを解決すべく企画を進めていったのが、PowerShot V10になります。

――具体的に言うと、スマートフォンでは何が足りないんでしょうかね?

大辻氏 いろいろあると思うんですが、インカメラでの画質や画角の広さ、あるいはマップで道を見ながら歩くとか、長時間のライブ配信のときにメッセージが来ると途切れてしまうとか。あとは電池が気になって撮影に集中できない、ストレージが足りないのでSDカードに分けて保存したいといったニーズもあります。

 スマートフォン自体はいろんなことに使えますが、その分、撮影専用デバイスとしては少し足りていない。それで専用機が欲しいんだけれども、一般のカメラは難しく感じる。そういったところにフォーカスを当てて企画した商品です。

――個人的に感心したのが、価格設定なんです。直販価格でも6万円を切り、市場想定価格で5万円前後という設定は非常にうまいと思うんですが、この価格に収めるためにはどうしても何かを捨てなければならない。何を捨てたのでしょう。

大辻氏 この価格にするために引き算した部分は、やはり大いにありました。今までのコンパクトカメラの基本となる光学ズーム機能をなくして単焦点にしたことは、コンパクト化の追及に大きく効いています。それ以外でも、他の製品では入れている設定機能や撮影モードに加えて、動画撮影にはあったら便利と思われる機能のいくつかも搭載しませんでした。

 製品仕様は開発期間の長さとも連動してきます。ターゲットとするような期間内で作れるか、理想のサイズ感にできるかを意識しつつ要素を引き算していきました。

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