道なき道を走るパートナー、不整地走行のエキスパート集団「CuboRex」:越智岳人の注目スタートアップ(9)(2/4 ページ)
不整地を走行するロボティクス技術を武器に成長を続けるハードウェアスタートアップのCuboRex。同社の創業から現在に至るまでの経緯と強みの源泉について、代表の嘉数正人氏に話を聞いた。
「不整地を走る」という理想
CuboRexは2016年3月に寺嶋瑞仁氏が創業。現代表の嘉数正人氏は2019年に取締役として入社し、2023年3月に寺嶋氏が代表を退くまで二人三脚で開発と経営にいそしんできた。2人はCuboRexの創業以前から交流があり、かつては嘉数氏の会社に寺嶋氏がエンジニアとして入社するなど、2人は旧知の仲だった。
2人にはそれぞれ学生時代から心血を注いでいたプロダクトがあった。寺嶋氏は後にCuGoとなるクローラー、そして嘉数氏はE-cat kitだ。互いに何度か実用化を目指しては頓挫していた。今となっては2つとも経営を支える大黒柱のプロダクトだが、その当時はお互いのプロダクトにはネックがあった。
寺嶋氏が当時開発していたクローラーは製造原価が高く、販売価格も1台当たり50万〜60万円台と現在の倍以上。モビリティ用途として開発していたために売り込み先を絞れず、売り上げにはつながらなかった。一方のE-cat kitは建設業界に売り込みをかけてはみたが、実績を求められなかなか売れなかった。大学卒業後に就職することなく起業した嘉数氏は営業や事業開発の経験が乏しく、事業を前進させる方法が分からない状況だった。
互いによく知る2人が再び合流した際、手元にあったのはそれぞれ開発していたクローラーとE-cat kitのプロトタイプだけだった。会社の運転資金は残り数カ月分しかない中で、2人はお互いの製品が売れる方法を模索する。
手始めに嘉数氏はクローラーのコンセプトを変更して、原価を大幅に下げたロボット向けのクローラーを寺嶋氏に提案し、現在のCuGoの原形となるクローラーを2人で開発した。
「競合製品を調べた結果、コンセプトと価格の折り合いがつけば面白い製品になりそうだという確信はあったので、徹底的にコストダウンを図りました」(嘉数氏)
完成したクローラーを「ロボカップジャパンオープン2019」(新潟県長岡市)で披露すると、3台の注文をその場で取り付けることに成功。この3台がきっかけとなり、クローラーはCuGoというシリーズ名でラインアップを拡充。着実に売り上げを積み重ねる主力製品へと成長していく。
一方のE-cat kitは建設業界より先に農業からスタートさせた。そのきっかけは寺嶋氏の直感だった。
「(寺嶋氏の実家がある)和歌山県のみかん農家になら絶対売れるだろうという提案を受けて、寺嶋の実家に泊まり込んで、2人で営業活動を始めました。当初はJA(農業協同組合)に売り込みに行ったのですが、実績のない会社に対する信頼はありませんでした。仕方がないので、地元のみかん農家を回ることにしました」(嘉数氏)
全くの門外漢であれば地元の農家からも相手にされない可能性はあったが、寺嶋氏の実家が地元でお寺を営んでいたという信用も功を奏する。結果的には複数の農家から10セットの受注につながった。現在ではJAに加え、ホームセンターにも販路を拡大し、防水性を向上させた新製品では年間2000台の販売を目指す。
「仕様とコストの見直し」「市場のスイッチ」というお互いのアドバイスが実を結び、それぞれ学生時代から取り組んでいた2人の製品は、ようやく日の目を見た。その後、CuboRexはこれら2つの製品を主力事業として成長。現在では社員数25人以上を抱えるまでに規模を拡大した。
わが子同然のように向き合ってきたプロダクトの欠点を指摘されたり、想定していなかった意見をもらったりすることは決して心地よいものではない。しかし、間近で見てきたからこそ、互いに気づいたことや思うことがあった。そこから目を背けなかったことが、結果として今のCuboRexを形作ったのだった。
※【補足】創業者の寺嶋氏は2023年3月に代表を退任。嘉数氏が代表取締役に就任した。その経緯については同社Webサイト(https://cuborex.com/archives/4769)に掲載されているので、詳細はそちらに譲りたい。
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