住友ゴムのMIはレシピ共有でスタート、今はタイヤのライフサイクル全体を対象に:マテリアルズインフォマティクス最前線(2)(2/5 ページ)
本連載ではさまざまなメーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを採り上げる。第2回では住友ゴムの取り組みを紹介する。
「ADVANCED 4D NANO DESIGN」の進化とは?
MONOist 4D NANO DESIGNについて教えてください。
岸本氏 当社は2001年から大型放射光施設「SPring-8(兵庫県佐用町)」を活用し、タイヤ用ゴムの実験を行い、ゴムの分子構造など多くのデータを得ていた。ところが、得られたゴムのデータを解釈するのはとても難しかった。
また、1990年頃から、スーパーコンピュータを用いたシミュレーションを活用しており、ゴムの材料を対象としたシミュレーションも行っている。当時はこのシミュレーションで主に仮想空間上でゴムの実験を実施していたが、ゴムの内部がどのように変化しているか分からず、実験の正当性が判断できなかった。
そこで、SPring-8で得られたゴムの分子構造解析データを忠実に反映したコンピュータシミュレーションを行える技術として4D NANO DESIGNを2011年に開発した。4D NANO DESIGNでは、大型計算機として海洋研究開発機構のスーパーコンピュータ「地球シミュレーター」を使用していた。
その後、当社では、4D NANO DESIGNをベースに、大型計算機として理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」を採用した「ADVANCED 4D NANO DESIGN」を2015年に開発した。ADVANCED 4D NANO DESIGNでは、京を活用することで、これまで小さな規模でしかできなかったようなコンピュータシミュレーションが大きな規模でできるようになった。例えば、ゴムを引っ張った時にゴムの内部でどのように破壊が起きるかについて、地球シミュレーターを使用していた時と比べ100倍のスケールで見られるようになった。シミュレーションの処理速度も1000倍上がった。これらにより、ゴムの内部を忠実に再現した大きなシミュレーションが行えるようになった。
さらに、SPring-8で得られたゴムの分子構造解析データだけでなく、大強度陽子加速器施設「J-PARC(茨城県東海村)」で得られたゴムの運動解析データも取り込んだ。具体的には、SPring-8で放射光X線(電磁波)により取得したゴム内の補強材(カーボン、シリカ)と架橋剤(硫黄)のデータや、J-PARCで中性子(粒子)により得られた天然ゴム、合成ゴム、各種薬剤のデータをADVANCED 4D NANO DESIGNに取り込んだ。これにより、ゴム内のシリカ、カップリング剤、ポリマー、不均一架橋、硫黄架橋長さの分布に関する破壊のシミュレーションモデルを大きなスケールで詳細に作れるようになった。
現在は、ADVANCED 4D NANO DESIGNの大型計算機としてスーパーコンピュータ「富岳」を活用することで、京を利用していた時と比較し処理速度が100倍向上した。加えて、これまでのスーパーコンピュータは設置されている施設に合わせたプログラムを作らないと当社のシステムで活用できなかったが、富岳は汎用的なプログラムでも動くという特徴があり使い勝手が良い。これらの利点により、京で5年かかるとされているシミュレーションを数日で行え、さまざまなゴムの破壊現象が調べられるようになり、耐久性に優れたゴムの開発が実施しやすくなった。
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