ジム・ケラー氏率いるテンストレントがNVIDIAに対抗、鍵は“AIコンピュータ”:人工知能ニュース(1/2 ページ)
AIアクセラレータやRISC-VベースのCPU、チップレット技術を手掛けるテンストレント CEOのジム・ケラー氏が来日。東京都内で会見を開き、同社の“AIコンピュータ”の優位性を強調した。
AI(人工知能)アクセラレータやRISC-VベースのCPU、チップレット技術を手掛けるテンストレント(Tenstorrent)は2023年6月20日、同社 CEOであるジム・ケラー(Jim Keller)氏の来日に合わせて東京都内で会見を開いた。ケラー氏は「独自のAIアクセラレータとRISC-VのCPUを統合することにより省電力で低コストの“AIコンピュータ”を実現できる。より高い処理能力が求められる生成AIでも有効活用できるだろう」と優位性を強調した。
テンストレントはAI関連のハードウェアやソフトウェア、オープンソースのプロセッサコアであるRISC-VベースのCPUなどを手掛けるベンチャー企業だ。2016年創業でカナダのトロントに本拠を置き、米国のサンタクララやオースティン、セルビアのベオグラード、インドのベンガルール(バンガロール)を含めた5拠点で開発を進めている。現在の従業員数は約280人で、2023年1月には日本法人も発足している。
テンストレントの名前が広く知られるようになったきっかけは、2020年12月に先端半導体の設計者であるケラー氏の入社だろう。DECの「Alpha 21164/21264」やAMDの「Athlon」「Zen」、アップル(Apple)の「A4/A5」などを開発したケラー氏だが、テンストレントの入社前には「SaphireRapids」のベース技術を開発するなどしたインテル(Intel)を2020年6月に退職している。インテル退職後のキャリアとなったのが、社長兼CTO兼取締役としてのテンストレントへの入社になる。
ケラー氏は「次世代のAI技術の開発に関心を持ってテンストレントに加わった」と入社の背景を説明する。また、現在はCTOではなくCEOを務めているが「AIアクセラレータの市場参入を推進するには、さまざまな機能を備えた開発チームを組成して行く必要がある。創業者のLjubisa Bajic氏と相談した結果、私がCEOに就任してそれらのチーム組成を進めることになった」(ケラー氏)という。
AIアクセラレータ、RISC-VベースCPU、チップレット技術
テンストレントのプロダクトは大まかに分けて、AIアクセラレータとRISC-VベースCPU、これらのプロダクトを効率良く半導体パッケージに集積するチップレット技術の3つから構成されている。
既にリリースしているプロダクトとしてはAIアクセラレータがあり、2021年発表の「Grayskull」、2022年発表の「Wormhole」がある。12nmプロセスで製造しており、Grayskullは276TFLOPS(FP8)、Wormholeは328TFLOPS(FP8)の処理能力がある。これらのAIアクセラレータに、RISC-VベースのCPUを集積した“AIコンピュータ”となるのが2023年夏にテープアウト(IC化)する予定の「Blackhole」である。
テンストレントにおけるRISC-VベースCPUの開発は、BlackholeのようなAIコンピュータ向けから始まったが、単体での引き合いが非常に強いこともあり、IPやチップレットなどの形で提供する方針である。2023年末には第1世代のRISC-VベースCPUのIPをリリースする予定だ。
さらに、同社のRISC-VベースCPUではベクトル演算技術を導入していく構えだ。NECでVE(ベクトルエンジン)の開発に携わった石井康夫氏がテンストレントにアーキテクチャフェローとして入社しており、第2世代のRISC-VベースCPUの開発を進めている。
ケラー氏はRISC-Vについて「オープンであることにより技術的に多様な人々が開発に携わり革新を遂げている。同じくオープンであるOSのLinux、AIフレームワークのPyTorch、モバイルプラットフォームのAndroidのように広く利用されていくことになるだろう。日本市場でもRISC-Vの採用が始まっており、当社としても、『富岳』のような優れたHPC(高性能コンピュータ)を開発した日本でハードウェアやソフトウェアの開発を一緒に進められればと考えている」と語る。この他にも、自動車業界からAIとRISC-Vへの強い引き合いがあることから、世界的に有力な日本の自動車メーカーやティア1サプライヤーとの関係構築も期待しているという。
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