三菱電機がSBD内蔵SiC-MOSFETのサージ電流集中の原因を解明、新チップ構造で克服:組み込み開発ニュース(1/2 ページ)
三菱電機が大容量のフルSiCパワーモジュールでもSBD内蔵SiC-MOSFETを適用可能とする新たなチップ構造について説明。同技術を適用した大型産業機器向け3.3kVフルSiCパワーモジュールのサンプル出荷も始めている。
三菱電機は2023年6月1日、オンラインで会見を開き、大容量のフルSiC(シリコンカーバイド)パワーモジュールでもSBD(ショットキーバリアダイオード)内蔵SiC-MOSFETを適用可能とする新たなチップ構造について説明した。同年5月31日にサンプル出荷を始めた鉄道車両/直流送電などの大型産業機器向け3.3kVフルSiCパワーモジュール「FMF800DC-66BEW」に適用しており、早ければ2024年内にも量産出荷を始めたい考えだ。
三菱電機が新たに開発したSBD内蔵SiC-MOSFETの新チップ構造。フルSiCパワーモジュールを構成する複数のSBD内蔵SiC-MOSFETチップの中で特定チップにサージ電流が集中する課題を克服し、全てのチップにサージ電流が分散されるようになった[クリックで拡大] 出所:三菱電機
今回新たに開発したチップ構造を採用することで、SBD内蔵SiC-MOSFETを複数チップ並列で接続した大容量フルSiCパワーモジュールのサージ電流耐量を従来比で5倍以上に向上することに成功した。SBD内蔵SiC-MOSFETの実用化に向けて最大の課題になっていたサージ電流耐量を一般的なSi(シリコン)パワーモジュールと同等以上に高められたことで、SBD内蔵SiC-MOSFETの特徴であるパワーモジュールの小型化や大容量化、スイッチング損失の低減などが実現可能になり、最終システムである鉄道車両や直流送電の高効率化や高機能化に貢献できるようになる。
パワーモジュールの小型化や大容量化が可能なSBD内蔵SiC-MOSFET
次世代パワー半導体として期待されるSiCデバイスは、インバーターやDC-DCコンバーターなど電流変換回路への適用が進められている。これらの電流変換回路は電流のオンオフを制御するスイッチング素子と、スイッチング素子における高速スイッチングを補助する整流素子を一対にして適用するのが一般的だ。フルSiCパワーモジュールでは、スイッチング素子としてSiC-MOSFETを、整流素子としてSiC-SBDが用いられている。
今回の開発成果と関わるSBD内蔵SiC-MOSFETは、SiC-MOSFETとSiC-SBDの機能を1つのデバイス内に一体化したものだ。フルSiCパワーモジュールを構成する場合に、SiC-MOSFETとSiC-SBDを別チップにするのと比べて高密度に実装できるため、パワーモジュールの小型化や大容量化が可能であり、スイッチング損失の低減も図れるなどの特徴がある。
三菱電機は2012年にSBD内蔵SiC-MOSFETを開発しており、機器の小型化や省エネルギー化が求められる鉄道車両/直流送電などの大型産業機器向けの展開に向けた応用開発を進めてきた。しかし、実用化に向けては、パワーモジュールを組み込んだ機器側における突発的動作によって流れる可能性のある大電流のサージ電流に対して、大容量を実現するために並列で構成している複数のチップの中で特定のチップのみにサージ電流が集中し、熱破壊が生じてしまうという課題があった。一般的なSi(シリコン)パワーモジュールでは、並列チップ構成にすればその数の分だけサージ電流耐量が高まるのに対して、SBD内蔵SiC-MOSFETを用いたフルSiCパワーモジュールでは1チップ構成とほぼ変わらないサージ電流耐量にしかならないことが課題になっていた。
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