困難だった「汎用マイコンで深層学習」を実現、Cortex-M4で画像認識も可能に:人工知能ニュース(1/2 ページ)
AIスタートアップのエイシングが発表した「AiirDNN」は、これまで極めて困難と考えられてきた「汎用マイコンで深層学習」を実現した。その技術の詳細や性能などについて、同社 社長の出澤純一氏に聞いた。
近年のAI(人工知能)の驚異的な進化を支えてきたのが、深層学習と大規模並列演算を高速に実行できるGPUであることは広く知られている。数多くの画像データを用いた深層学習により画像認識アルゴリズムは大幅な進化を遂げ、より困難とされる自然言語処理は今や「ChatGPT」などの形で生成AIとして大きな話題をさらっている。
ただし、深層学習に基づくAIアルゴリズムは、学習だけでなく推論実行でも大規模な演算処理能力が求められるため、クラウドやサーバ、高性能ワークステーションなどが必要になるのが一般的だ。ハードウェアのサイズや消費電力で制限のある組み込み機器では、専用アクセラレータを搭載することでAIアルゴリズムの推論実行を可能にするさまざまな取り組みが進められているが、追加コストがかかることもあり採用は伸び悩んでいる。
ハードウェアの制約に追われる組み込み機器の開発者からすれば、従来と同じように汎用マイコンだけで深層学習に基づくAIアルゴリズムを実行できることが理想だ。しかし実際に「汎用マイコンで深層学習」は極めて困難であり、最初から選択肢にも入らなかったというのが実情だろう。
AIスタートアップのエイシングは2023年4月25日、これまで不可能と思われてきた「汎用マイコンで深層学習」を可能にする「AiirDNN」を発表した。
深層学習ベースのAIアルゴリズムの推論実行は、プロセッサコアは最低でもArmの「Cortex-Aシリーズ」で動作周波数は数百GHz以上、メモリもGB単位、大まかにいえば小型ボードコンピュータ「Raspberry Pi(ラズパイ)」以上の性能が必要というのが一般的な認識だった。これに対してAiirDNNは、Armの「Cortex-M4F」を搭載する動作周波数170MHz、メモリ100KB以下の汎用マイコンでも推論実行が可能になるという。
エイシングはこれまでも汎用マイコンで活用できる軽量性とオンデバイス学習機能を持つAI技術として「AiiRシリーズ」を展開してきた。ただしこれらのAI技術は、決定木やランダムフォレストなどと同じ木構造のAIアルゴリズムであり、制御機器のパラメータなど時系列データを取り扱うのに適していた。エイシング 代表取締役社長の出澤純一氏は「これまで非深層学習で事業を展開してきたが、創業前の大学における研究開発の時代から深層学習を汎用マイコンで扱えるようにすることは開発の構想には入っていた。このほど開発に着手したところ、思ったよりも壁が低く数週間程度で実現のめどが立った」と語る。
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